蛇を奉って欲しい

公開日: ほんのり怖い話 | 不思議な体験

ろうそく(フリー写真)

昔、化粧品店とエステサロンを兼ねた店に働いていた。

事情があり、店長の家に住み込みすることになった。

いつも店長は遅く出勤して来た。

「頭が痛い」「体が重い」と口癖のように言う。

病院に行っても、どこも悪くないと言われたらしい。

一応、知っていた霊媒師さんをさり気なく勧めてみた。

余程辛かったのだろうか。本当にその霊媒師さんの所へ行ったらしい。

でも、追い返されたとのこと。

玄関に入ると、その霊媒師さんは声が殆ど出なくなり、

「強い霊が憑いている。私の力では祓えない」

と帰されたらしい。

私たち友人三人は、冷やかしではなく霊媒師巡りをしていた。

そこは金銭ではなく、するめやお酒を持って行けば祓ってくれた。

「色情魔の霊が憑いている」

三人とも同じことを言われ、一人ずつ祓ってもらった。

おいおい、色情魔はないだろ。失礼だなと思っていると、友人二人は号泣している。

「何故、涙が出て来るのか分からない」と言いながら号泣している。

「良いのよ。それが自然なの」と霊媒師さんが言う。

私は涙が出てこない。何故? 色情魔が強いの?

号泣している友人が羨ましかった…。

店長にはその霊媒師さんを勧めた。

でも断られ、自分で霊媒師を捜して来た。

お祓いの日は霊媒師さんが使うものを用意しなければならず大変だった。

霊媒師さんが来た。手には太鼓のようなものを持っている。

店長の他界した父親の写真を中央に置き、霊が話すことを他界した父親が聞く。それを霊媒師に伝えるというやり方だった。

「ドンドンドン…」

太鼓のようなものを叩き、除霊が始まった。

皆が手を合わせている。

私は暫くして居眠りをしてしまった。

何日も前からラップ現象で殆ど寝ていなかったからだろうか。

隣の子に起こされた。

友人はうたた寝していた私を親切に起こしてくれたのだと思っていたが、違っていた。

「○○ちゃん、あれ見て」

指差したのは、店長の父親の写真。

霊媒師さんが何か言うのと同じタイミングで、写真の口が動いている。

その子も私も除霊が終わるまで、耳では霊媒師さんの言うことを聞きながら写真を見ていた。

最後まで、写真の口は動いていた。

除霊が終わる頃には、微笑みを含んだ口元になっていた。

「これを全ての部屋の入り口に貼るように」

と御札のようなものを置き、霊媒師は帰って行った。

ところが、セロハンテープで全ての部屋に貼り、5分もしないうちに剥がれてしまった。

セロハンテープが悪かったということにして、画鋲で貼ることにした。

店長に憑いていた霊は、そこの土地に以前住んでいた人だったらしい。

お婆さんと孫。

憑いてはいないが、家の周りにはその頃の近所の人の霊もかなり居たらしい。

そのお婆さんは蛇を奉っていたらしく、近所の人もお婆さんと一緒に蛇を奉っていたらしい。お婆さんの応援(?)だろうか。

お婆さんは『蛇を奉って欲しい』がために、店長に憑いたらしい。

私は商売人ではないから分からないが、狐や蛇を奉る人が居るらしい。

最悪なことに、社長は狐を奉っていたがために、お婆さんの願いは叶えることが出来なかった。

蛇は水が好きだから庭に池を作れば良い、ということも出来なかった。

仕方なく毎朝お水を撒き、供えることにした。

除霊も終わった。店長の父親の写真も笑顔だった。全てが終わった。

でも、終わっていなかったのかもしれない…。

後日、店長が不思議な行動をした。

風呂場に行って冷水を浴び、玄関の方向へ這って行くのだ。

不気味だった…。

本人は何をしたのか覚えていない。

こんなところに居たくない。

私は「母親の具合が悪いので、自宅に帰ります」と嘘をついて帰してもらった。

ついでに、友人と一緒に仕事も辞めた。

関連記事

鏡の中のナナちゃん

私は幼い頃、一人でいる事の多い子供でした。 実家は田舎の古い家で、周りには歳の近い子供は誰もいませんでした。 弟が一人いたのですが、まだ小さくかったので一緒に遊ぶという感じ…

ろうそく(フリー写真)

お盆の不思議体験

怖くはないけど、お盆が来る度に思い出す不思議な話。 今から10年程前、長男が4才の時の夏。 俺達家族は例年通り、俺の実家に帰省していた。 父は10年以上前に事故で亡く…

狐の社(宮大工2)

俺が宮大工見習いを卒業し、弟子頭になった頃の話。 オオカミ様のお堂の修繕から三年ほど経ち、俺もようやく一人前の宮大工として仕事を任されるようになっていた。 ある日、隣の市の…

妖狐哀歌(宮大工10)

オオカミ様が代わられてから数年が経った。 俺も仕事を覚え数多くの現場をこなし、自分でも辛うじて一人前の仲間入りを果たす事が出来たと実感するようになった。 また、兄弟子たちも…

光の誓い

近所の「霊感おばさん」から夏祭りの時に聞いた話。 霊感おばさんの相談者の女性が、幼稚園時代に体験した話だそうです。 ※ 私は幼稚園の頃に「光の誓い」という曲を歌った事を覚えて…

命の大切さ

つい最近の出来事です。 職場で色々あって、自殺未遂しちゃったのね。 それで気分転換のため田舎に帰省したんだ。もちろん自殺未遂のことは秘密にして。 すると、信心深いばあ…

白い空間

誰もいない世界

私は2年前まで看護師をしていました。 今は派遣事務の仕事に就いていますが、我ながらよくあの殺人的なシフトをこなしていたなと感心します。17、8時間の拘束は当たり前の世界ですから。…

妖怪カラコロ

専門学生の頃に深夜専門でコンビニのアルバイトをしていた時の話。 ある日の午前1時頃に駐車場の掃除をしていると、道路を挟んだ向こう側の方から何か乾いた物を引き摺るような、 「…

アクァッホ(長編)

多分信じてもらえることはないだろうから、そういう創作物として見てくれれば幸い。 まず交流に使った方法はチャネリング(日本でいうところの口寄せの術)。 たまたま適当にネット漁…

愛猫の最後の挨拶

うちの両親が体験した話。 もう20年も前の夏のことです。 私達兄弟が夏休みを利用して祖父母の家に泊まりに行っていた夜、当時とても可愛がっていた猫がいつまで経っても帰ってこな…