ぼうなき様

田舎道(フリー写真)

ぼうなき様って知ってる?

想像以上にマイナーな行事だったので、地元から出て話題にした時は誰も知らなかった。

有名なS神社で行われる七五三の続きのような行事で、十歳前後の女の子が受けることがある。

妹がこれに参加した時は、正座して頭を下げ、祓いため清めたまえというような祝詞を聞かされただけだった。

この時は妹が自分と一緒が良いと言い、母に参加を強要されたから、何となく憶えている。

今にして思えば、神主にしては変なことを言ったんだよね。

「ご先祖様が心配するから、お盆の前にはまたおいでね」

これだけだと全く怖くないんだけど、どうやらこの行事の参加基準が悪夢らしい。

悪夢をよく見る子がこれに参加する。

うちの妹は悪夢を見やすい。

某宗教家R氏のあることないことを吹きこんだら、R氏にショベルカーで襲われる夢を見るくらい見やすい。

うちの妹は7年くらいは参加していると思うんだけど、このお祓いのようなものを受けた直後は夢見が良いらしい。

自分に選択権のある夢を見ることが少なくなると言うか、夢が映画のようにただ流れるものになるらしい。

妹は2年前から特に嫌な夢を見るようになったらしい。

白っぽい服の爺さんに会う夢をよく見るのだが、夢の場所は毎回違うらしい。

赤い絨毯の目立つホテル、近所のアパート前、夢でよく見る図書館、防空壕…というように脈絡が無いのだそうな。

爺さんとの会話も、前回と関係あることが全く無いのだそうで。

ただ、とにかく泣いているように裏返った声で喋るらしい。

それだけ聞くと妹が笑って喋る時とそっくりだと思うんだよね。家族の前ではそういう変な笑い方をする。

あれ、じゃあ、爺さんは実は笑っているのかな?

でも泣いていると言っているから、泣いているんだろうな。

ホテルの夢がこんな感じだったそうだ。

妹が登校のためホテルのエレベーターに乗る。

エレベーターの前には礼の爺さんが座っている。

妹「登校の邪魔だから、そこどいてよ」という旨を喋る。

爺「ひぃひぃ、おらがぼっかけてあぐねぇってのに、どげってのかひぃひぃ」爺笑いと訛りで非常に聞き取り辛い。

妹「それは貴方の都合でしょ」という旨。妹の性格なら絶対ここで罵ったと思う。

爺「ひぃひぃ、おぼってえっでぐれればどぐ」

妹「何処まで行きたいの?」という旨。

爺「オオオカ、ほが○×△」聞き取り辛く後半不明、人名とも地名とも取れそう。

妹、爺が気持ち悪い上に不愉快なのでついにキレて、爺の腕を引っ張って無理矢理立たせて退かせる。

結局、夢の中では走って登校したが、腕時計で遅刻を確認して夢が終わったそうだ。

起きてからその爺がいつもの爺だったことを思い出すと、とても怖いそうだ。

これもぼうなき様の儀式で無くなるそうだけどね。少なくとも一ヶ月間くらいは。

怖くて数珠とか付けるようになっら、減ったらしい。

妹に霊感があるとは思わないのだけど、兄貴と昔、兵隊さんの乗っている飛行機を見たと言うんだよ。

兵隊さんが乗っていてこちらを見ているのが、家の二階から見えた、と。これは絶対に譲らない。

尚、兄貴はこの話をすると、間違いなくUFOだと言い張る。

肉体的に弱いところもあって、ナイーブな時は特に気分がよく悪くなる。××に居たのが悪かった、などと言う。

霊感があって何か受信したのか、俺の知らないところで何か悪さをしたのか、たまたま波長でも合ったのか、はたまた精神的な何かか。

妹が神奈川に行ったのだけど、やはり夢見が悪いのだそうな。

爺はまだ夢に出て来るらしいので、お盆前に帰って来て、またぼうなき様を受けるそうだ。

関連記事

男の戦い(宮大工12)

十年程前、親方の親友でやはり宮大工の棟梁であるKさんが病気で倒れてしまった時の事。 親方とおかみさんは急遽お見舞いに行き、俺は親方の代理で現場を取り仕切った。 三日程して親…

時空の狭間の少女

これは俺が保育園に通っていた時の話。 俺が住んでた町には第一から第三まで保育園があり、俺は第一保育園に通っていた。 ある夏の日、合同お遊戯会の劇の練習で第一保育園の園児が第…

森

夏の記憶

私が小学生の頃のことである。 夏のある日、田舎にある母の実家に家族で訪れた。 夕食時に、弟と両親は近くの有名なお寺を見学すると言って外出し、私はおばあちゃんと実家に残った…

小学校

途切れた記憶

私は小学3年の冬から小学4年の5月までの間、記憶がありません。 何故かそこの期間だけ記憶が飛んでしまっているのです。 校庭でサッカーをして走っていたのが小学3年最後の記憶で…

湖(フリー素材)

白き龍神様(宮大工13)

俺が中学を卒業し、本格的に修行を始めた頃。 親方の補助として少し離れた山の頂上にある、湖の畔に立つ社の修繕に出かけた。 湖の周りには温泉もあり、俺達は温泉宿に泊まっての仕事…

今の死んだ人だよな

この4月の第3土曜日のことなんだが、自分は中学校に勤めていて、その日は部活動の指導があって学校に出ていた。 その後、午後から職員室で仕事をしていた。その時は男の同僚がもう二人来て…

田舎の駅(フリー素材)

きさらぎ駅の立て札

皆さんは「きさらぎ駅」という名称を聞いたことがありますか? これは数年前、インターネット上の2chで話題になった都市伝説で、ある方が実在しないとされるこの駅に迷い込み、その後行…

山

山の神様との約束

奄美大島には古来から「ケンムン」という妖怪が存在すると言い伝えられています。ケンムンは子供のような小さな背丈で、毛むくじゃらの体に山羊のような臭いがするとされており、頭には特徴的な皿…

田舎の村

十九地蔵

俺の家は広島の田舎なのだが、なぜか隣村と仲が悪い。俺の村をA村、隣村をB村としよう。 不思議な事になぜ仲が悪いのかは不明だ。A村の住人に聞いてもB村の住人に聞いても明確な理由は判…

自衛隊での体験談

ちょっと専門用語が多いので分かり難いかもしれない。 高校卒業後すぐに自衛隊に入隊した俺だったんだが、7月の後期教育のある日、駐屯地にある小さい資料館の掃除があったんだ。 班…