川辺で会ったおじさん

公開日: 心霊ちょっと良い話

渓流(フリー写真)

小学5年生の頃、隣のクラスに関西からの転校生S君が来た。

ある日の昼休み、体育館の片隅でS君がクラスの野球部数名から小突かれたりして虐められているのを発見した。

俺は当時、身体が学年で一番大きく空手もやっていたので、

「お前ら、何やってんだ!やめろ、ばかやろー」

と割って入った。

野球部の連中は、

「遊んでるだけだよ~。邪魔すんなよ~」

と言ったが、何だか無性にムカついたので蹴りを食らわせてやった。

すると野球部の連中はS君を置いて逃げて行った。

それからS君と少しだけ会話をして、その時は終わった。

数週間後、帰宅時にうちの近所でS君とばったり会った。

「こないだはありがとう。

俺、転校して来てからとにかく虐められんねんけど、こないだ助けてくれたおかげで、あれからはただ無視されるだけになってん。

俺としてはそっちの方がええから、ほんま助かった。

うちのマンションすぐそこやから、寄ってってや」

と言われ、マンションに上げてもらった。

上がるとお母さんが、

「あんた友達できたの、良かったわ~」

と言って喜び、俺に色々話し掛けてきた。

結局それが切っ掛けでお互いの家を行き来するようになり、よく遊ぶようになった。

それは6年生になっても変わらなかった。

釣りを教わったりチャリで遠出したりと楽しかった。

6年生の夏休みに入る少し前に、S君から

「また転校するんやけど」

と言われた。

お父さんが金融の仕事をしているので転勤が多いらしい。

がっくりしたけど、夏休みに最後、また釣りに行くことに決めた。

釣りの日の数日前、S君が晩飯時に突然、我が家に来た。

「実は、釣りの日に離れることになってしまって、だから挨拶に来たんよ。釣り行けなくてごめんな」

と…。

わざわざ、プレゼントまで持って来てくれた。

会うのはそれが最後になってしまった。

釣りはちゃんと準備していたから、当日は俺一人で遠出して行った。

でも一人で釣りをしていても何だかつまらなくて、『今頃、新幹線乗ってるのか』などと考えていた。

腹が減ったので持参のおにぎりを食べている時に、ふと気付くと横におじさんがしゃがんでいる。

目が合うと、

「ほんまありがとな」

と言われた。ボソッと。

俺は当然『誰だこの人?』と思い躊躇した。

次の瞬間、強い日差しがバーッと正面から来たので、俺は手で顔を覆った。

ふと目線を戻すとおじさんは居なかった。

辺りを見渡してもおじさんは居なかった。誰も居なかった。

走ってその辺を見たんだけど、俺しか居なかった。

家に帰ってそのことを父に話すと、

「一人で釣りになんか行くからだ。変なヤツが多いんだよ最近」

と言われ、一人で釣りに行くのは禁止になってしまった。

それまではS君としか釣りには行っていなかったので、それ以降、釣りは一切やらなくなってしまった。

ただ、僅か数秒だがとても不思議な時間だったように感じたので、そのおっさんの顔はちゃんと覚えていた。

それから20年後。去年のこと。

某サイトで、会員制の同窓会サイトがあることを初めて知った。

登録して見ていたら、S君が

「一年程しか居なかったけど、僕のことを覚えている方はいらっしゃいますか」

といった内容の投稿を掲載していた。驚いた。

それで俺からコンタクトを取ってみると、すんなり返信が来た。

お互いにとても喜び、偶にメールで遣り取りをするようになった。

S君は自分で会社を立ち上げ、頑張っているそうで何より。

ある日、うちの地元でお祭りがあり、写真を撮った。

それをS君にメール添付で送ってあげた(俺は母と同行したもので、祭りをバックに二人を撮った写真)。

数日後、S君から返信が来た。写真添付あり。

妻子と、大分禿げ上がったS君。相変わらず眼鏡。

文章には、

「柴ちゃん(俺)はまだ若いね。羨ましい。

俺は遺伝が早くも来ました。若禿げです。驚きでしょ?

苦労も多いので、これからどんどん進行するでしょう」

とある。

俺はその返信を笑いながら見ていたんだけど、

『あ!あの時のおっさんに似ている』

と思った。あのおっさんも眼鏡だった。

それで何とも言えない気持ちなり、S君に当時のことをメールした。

どんな返事が来るかと待っていたら、ちゃんと来た。

「最後、釣りに行けなかったのは覚えてます。

あれからうちの父が出世して転勤が無くなったので、あれが最後の転校だったから、ちゃんと覚えてる。

離れる時に新幹線の中で泣きっぱなしでした。

柴ちゃんが見たおっさんは、何だろうね。

会社を立ち上げる時に著名な人に相談したんです。

霊視も出来る人だそうで、起業支援者に誘われて行ってみたら、

『あなたのことを、あなたにそっくりなひいおじいさんが日々守ってくれています。生まれた時からです。だから墓参りなどはちゃんとしてあげてください』

みたいなことを言われたんだけど、そのひいおじいさんかな?

柴ちゃんは俺のことを守ってくれたから、感謝したのかもね。

ちなみに俺が小さい頃、もう記憶に無いけど風呂場でそれらしき人を見たことがあるらしく、うちで話題になったって聞いた」

そんなこんなで、俺が川で会ったのは多分そのひいおじいさんなのかなと思う。

霊体は水がある付近でよく出るというのを聞くけど、そういうことなのでしょうか。

関連記事

古民家(フリー写真)

祖父母の人生

私のおじいちゃんとおばあちゃんの話。 この間、おばあちゃんの家に泊まった時にしてくれた話です。 ※ おばあちゃんは生まれつき目が悪かったんだけど、戦時中は9人居る兄弟の為に働…

少年と祖母

今年33歳になるが、もう30年近く前の俺が幼稚園に通っていた頃の話です。 昔はお寺さんが幼稚園を経営しているケースが多くて、俺が通ってた所もそうだった。今にして思うと園の横は納骨…

山

山の神社と巫女の幽霊

これは5年前の話です。当時の私は浮浪者で、東京の中央公園での縄張り争いに敗れ、各地を転々とした後、近畿地方の山中の神社の廃墟に住むようになりました。 麓へ下り、何でも屋として里…

バー(フリー写真)

見えない常連さん

俺が昔、まだ神戸で雇われのバーテンダーだった頃の話。 その店は10階建てのビルの地下にあった。 地下にはうちの店しかないのだけど、階段の途中にセンサーが付いていて、人が階段…

良い心霊写真

写真店のご主人から聞いた話ですが、現像した写真におかしなものが写り込む事は珍しくなく、そういったものは職人技で修正してお客さんへ渡すそうです。 このご主人ですが、一度だけ修正せず…

市松人形(フリー写真)

華ちゃん

高校生の時に婆ちゃんが亡くなり、形見で市松人形を頂いた。 かなり古いが可愛い顔で、良い品だと見て取れるような市松さん。 『華ちゃん』と名付け、髪飾りを作って付けてあげたり…

民宿の一室(フリー写真)

あの時の約束

長野県Y郡の旅館に泊まった時の話。 スキー場に近い割に静かなその温泉地がすっかり気に入り、僕は一ヶ月以上もそこに泊まったんです。 その時、宿の女将さんから聞いた話をします。…

三宅太鼓(フリー写真)

三宅木遣り太鼓

八月初旬。 夜中に我が家の次男坊(15歳)がリビングでいきなり歌い出し、私も主人も長男(17歳)もびっくりして飛び起きました。 主人が「コラ!夜中だぞ!!」と言い、電気を点…

夜のオフィス(フリー素材)

中小ソフトウェアハウス

中小ソフトウェアハウスに勤めていた友人Kの話です。 あるプロジェクトの納期がきつくデスマーチとなり、Kとその先輩は連日徹夜で作業していたそうです。 ところが、以前のプロジ…

小島(フリー写真)

海女さんの心霊体験

私は23歳で、海女歴2年のあまちゃんです。 泳ぐのが好き、結構儲かる、という理由でこの仕事をしていますが、不思議な体験をした事があります。 ※ 海女になりたての頃、自分に付い…