山のタブー
公開日: 死ぬ程洒落にならない怖い話 | 田舎にまつわる怖い話
子供の頃、近所のおじいさんに聞いた話です。
そのおじいさんは若い頃、一度事業に失敗し実家の田舎に帰ったそうです。
実家には持ち山があり、色々謂れがありました。
しかし若い頃に学業のため上京した彼は、その謂れなるものを全く知らなかったそうです。
※
ある日、彼が山を歩いている時にふと茂みを覗くと、一羽の兎が居たそうです。
しかし『兎だ』と思ったのは単に耳が長かったからで、実のところは見慣れている兎とは大分違う生き物であったとの事。
毛も無く目も開いておらず、簡単に言うと生まれたての子兎のようだったとか。
ただ大きさは紛れも無く野兎のそれであったそうです。
しかもよく見るとその兎は酷く怯えており、彼が近付いても動こうともしません。
よく見ると、後ろ脚が罠に掛かっているようでした。
罠と言っても彼の見たところ、細い草に引っかかっているようにしか見えません。
彼は別に何の気も無く、罠を外してやったそうです。
そしてふざけて、
「恩返しをしろよ」
と兎の方を見ると、先に語った姿の醜悪さなものですから、突然腹の底からぞっとし逃げ帰ったそうです。
※
おじいさんは帰宅後、その出来事を家の人に話しました。
すると、家に来ていた分家筋の人達が一斉に厳しい顔になり、
「直ぐに出て行け」
と言い出し、彼は新妻諸とも叩き出されたそうです。
彼は痛く憤慨しましたが、それから年を経るに従い何となく理由を理解しました。
奥さんは三度流産し、結局子供が出来ませんでした。
「多分、あれは山の神様への生け贄で、自分が勝手に逃がしてしまったのだろう」
と、おじいさんは言いました。
重ねて、
「実は村から叩き出された直後、あまりにも腹が立つので、一度件の山に行ったのだ。
兎の居た辺りで気配を感じたのでふと上を見上げると、錆び付いた斧が自分めがけて落ちて来るところで、慌てて飛び退いた。
多分あの時、自分が腕なり脚なりを切って捧げていれば、子供は助かったかもしれない」
と言いました。
※
おじいさんはとても良い人でしたが、それでもタブーを犯してしまった。
その報いを受けなければならないのだな、と思いました。
ちょっと哀しかったし、怖かったなあ。