台風の夜

公開日: 怖い話 | 洒落にならない怖い話

B8421F3B15834F7B94CF99C85AC1FD07_LL

私が友人と4人でキャンプに出かけた時のことです。

ちょうど台風が日本に近づいている時でしたが、日本上陸はしないと天気予報は報じていたので、キャンプを強行したのでした。

しかし雨こそ降らなかったものの予想外の風の強さにテントを張ることもままならず、飛び込みで民宿に入ったのでした。

そこは旅館と言っても良いくらいの立派な建物で、急な客の私達を快く迎えてくれました。

通された部屋は小さな宴会場の隣で、

「普段は使わない部屋でして、多少隣がうるさいかもしれませんが」

と申し訳なさそうに女将さんに言われました。

「いえいえ、こちらこそ、無理をお願いしまして」

と私達は部屋に腰を落ち着けました。

部屋で食事を済ませてお酒をちびりちびりとやっていると、なるほど隣からボソボソと声が洩れてきました。

しかしいつまでも隣の宴会は盛り上がる様子はありませんでした。

私は気晴らしに廊下をぶらりと散歩して、隣の宴会場に電気が点いていないので驚きました。

ふすまをそっと開けると誰もいませんでした。

部屋に戻り『おかしいなあ』と思っていると、隣の宴会場からボソボソと人の声が聞こえてきます。

友人達も隣の宴会場を覗きましたがやはり誰もいませんでした。

「幽霊のいる部屋の隣だから空いていたのか」

酒に酔った私達は気が大きくなって特に怖いとは感じませんでした。

霊感が強いという友人が部屋の壁を叩いて、

「そちらは亡くなった方ですか?」

と言いました。

すると、「トン」と壁を叩く音がしたのです。

「線香でも上げましょうか?」すると、「トン」と音がしました。

「何本くらい必要でしょうか? そちらは人数は…?」

すると、

「どん!どん!どん!ばん!どん!どん!ばん!どん!どん!ばん!どん!どん!

ばん!どん!どん!ばん!どん!どん!どん!どん!ばん!どん!どん!」

と壁中から音がして、私達4人は腰を抜かしそのまま気を失ってしまいました。

翌朝目が覚めて、部屋を飛び出すと、女将さんが大量に線香を携えて宴会場に向かうところでした。

女将さんの話ではまだ先代の女将が現役だった頃、台風で多くの犠牲者が出て、宴会場を死体置き場にしたことがあったとのことでした。

それ以来、時々この時期に霊に敏感な人が泊まると彼らに遭遇するのだそうです。

関連記事

動物霊

動物霊をご存知だろうか。 その名の通り動物の霊なのだが、民間伝承でもよく知られているものは狐狸の類であろう。 これらに限らず、特に畜産や水産に関わる動物への信仰は強く、墓や…

火傷の治療

昭和の初め頃、夕張のボタ山でのお話。 開拓民として本州から渡って来ていた炭鉱夫Aさんは、爆発事故に見舞われた。一命はとりとめたものの、全身火傷の重体だった。 昔の事とて、ろ…

姉のアトリエ

10年程前の話。 美術教師をしていた姉が、アトリエ用に2DKのボロアパートを借りた。 その部屋で暮らす訳でもなく、ただ絵を描く為だけに借りたアパート。 それだけで住ま…

そこを右

あるカップルが車で夜の山道を走っていた。 しかし、しばらく走っていると道に迷ってしまった。 カーナビもない車なので運転席の男は慌てたが、そのとき助手席で寝ていたと思った助手…

ごうち(長編)

ある新興住宅地で起こった出来事です。 そこはバブル期初期に計画が出来、既存の鉄道路線に新駅を作り広大な農地を住宅地へと作り変えて、駅の近辺には高層マンションやショッピングモールな…

公衆トイレ

いつも

高校生の時、俺は腸が弱かった。故に学校に行く時は少し早く出て、途中の汚い公衆便所で用を足す事が多かった。 その公衆便所は駅を降りて、通学路からは少し外れた所にある森の中にある。 …

神降ろし(長編)

2年くらい前の、個人的には洒落にならなかった話。 大学生になって初めての夏が近づいてきた金曜日頃のこと。人生の中で最もモラトリアムを謳歌する大学生といえど障害はある。そう前期試験…

旅館(フリー写真)

旅館での恐怖体験

甲府方面にある旅館に泊まった時の話。 俺と彼女が付き合い始めて1年ちょっと経った時に、記念にと思い電車で旅行をした時の事。 特に目的地も決めておらず、ぶらり旅気分で泊まる所…

養鶏場(フリー素材)

ヒギョウさま

今はもう廃業していますが、私の母方の実家は島根で養鶏場をしていました。 毎年夏休みになると、母親と姉、弟、私の4人で帰省していました。父は仕事が休めず、毎年家に残っていました。 …

渦人形(長編)

高校の頃の話。 高校2年の夏休み、俺は部活の合宿で某県の山奥にある合宿所に行く事になった。 現地はかなり良い場所で、周囲には500~700メートルほど離れた場所に、観光地の…