コッケさん

e0145589_22143518

私の田舎ではコケシの事をコッケさんと言って、コケシという呼び方をすると大人に相当怒られました。

中学生に上がりたての頃、半端なエロ本知識で「電動こけし」という単語を知ったクラスの友達が、コケシコケシと連呼してるのを、指副担に見つかり、バカスカ殴られてました。

大学に入って初めて知ったのですけど、指副担(シフクタン)なんていう役職は他の地域にないんですよね。

あ、指副担というのは、生活指導副担という意味で、別に何の教科を担当してた訳でもないです。

野球部のコーチみたいな感じで、毎日学校には出てくるのですが、だいたい用務員室で茶飲んで定時前には帰るような感じでした。

学校行事の中で踊りみたいなものは、指副担の先生が指揮を取っていました。

運動会で必ずメイポールの祭りみたいな踊りを伝統的にやらされてたのですが、これは指副担の先生の独壇場でした。

列が乱れたり、ポールから引いたリボンがたるんだりすると怒るような。組体操より全然こっちが大事でした。

体育教師の数倍嫌な感じでした。

高校に入って地元の青年会に入ると、コッケさんのあらましは聞かされるのですが、それもまあ「コッケさんという地神さんは伝統だから行事は守らないといけない」みたいな感じの話で要領を得ません。

地域に大きな寺社や宗教施設がないし、中学高校にもなるとさすがに色々変な噂が立ってました。

・○○中学の裏にある井戸が本尊で、毎年一人生贄にされる

・高校出て町に出るときは井戸に後ろ髪を納めさせられる

噂は噂でしたけど、実際私がいた頃は後ろ髪を伸ばした奴が多かったです。単なるヤンキーだったのかもしれないですけど。今は帰らないのでどうかわかりません。

今、同郷の女の子が近くのマンションに住んでいて、その子の叔父さんが指副担やってたんですけど、このスレでコケシの話題が出ていたので、何か関係ありそうだったので聞いてみました。

私たちがコッケと読んでいるのは「固芥」と書くらしいです。

明治に入ってすぐの頃、飢饉と水害の土砂崩れで村が外部との交通が遮断されたまま、一冬放置されたことがあったそうです。

12月28日の事、知恵の遅れた七歳の子供が村の地区の備蓄の穀物を水に戻して食べてしまったそうなのでした。

その子供は村の水番が、妹との間に作った子供で(本当かどうかは分かりませんが、水車小屋のような場所があったので、すぐそういう性的な噂が立てられた)水番が罪を犯すと翌年は日照りになるという迷信がまだ残っていました。

水番は責任感が強かったので、子供を殺して村に詫びようとしたそうです。

実際、

「子供を殺せ」

と書いた無記名の手紙を投げ入れるような嫌がらせが、すぐ始まったそうです。

水番に不利に扱われていた家も多かったし、実際、穀物の管理責任は水番にあるので、そういうのが起きても仕方ない状況ではあったそうです。

年明けて1月28日の深夜「いくら何でも水番が自分の息子を殺すのを容認はできないのでこの事は村全体で考えよう」と談判していたところ、水番の妻が泣きながら世話役の家に走りこんで来て「亭主が首を括ったので来てくれ」と言うのです。

水番の家に行くと、井戸の上に「井」の字に竹を渡して、そこから首を吊るすようにして絶命している水番がいました。

あまりの酷さに世話役たちが顔を背けていると、くだんの息子が傍らから世話役の袖を引いて、

「みましたか!みましたか!」

と、目をらんらんと輝かせて尋ねるのだそうです。

この子はもはや正気ではないとは解っていました。

しかし、当時の解釈では「これは水番の相反する気持ちが、子の魂は滅ぼしても子の肉体は母のために生かしておいてやりたいという願いになり、親子の魂が入れ替わったのだ」というのが支配的でした。

間引きのために子供を殺したことはありませんでしたが、この時、村で初めてこの子供を

「殺そう」

という結論が出たのだそうです。

横糸を斜めに織った長い綿布で首を包んで、布に少しずつ水を吸わせて、誰も手をかけないうちに殺そうということになりました。

しかしそこは、素人考えですので、首は絞まってもなかなか絶命しません。

子供は父と同じ顔で

「誰じゃ、食ったのは誰じゃ」

と声を上げていました。

恐れおののいた村人は、父が死んだのと同じように、井戸に竹を渡してそこから子供を吊るしました。

ものすごい形相で睨むので、まぶたの上から縦に竹串を通しました。子供は数日糞便を垂れ流して暴れたのち、絶命しました。

その明けた年は、飲み水から病気が発生し、多くの人が命を失いました。

さらに、本当に穀物を食ったのが、この子供ではなく、世話役の十三才になる子供だったことが判ったのだそうです。

この時、世話役は躊躇なく我が子を同じ方法で吊るしたのだそうです。あくる年の1月28日のことだそうです。

「という訳で、1月28日はコッケさんの日になったんですよ」

「はー、なるほど。命日な訳な」

うちで飯を食べてもらいながら、彼女(指副担の姪っこ)に、教えてもらいました。

「だから固芥忌(コケキ)っていうのが正しいんですよ」

「運動会の行事も、意味解ると、ひどいね」

「…村人全員で子供をシめる儀礼ですからね。本来こういう形でやさしく弔ってあげたのにという、偽善ですよね」

「うん」

(運動会の踊りは、メイポールの祭りに似てますので、知らない人は検索してもらうとどういう形なのかわかります。中央のポールが子供です)

「…あとですね、これ、私一人で気付いたんですけど」

彼女はペンを取ってチラシの裏に「芥」の字を書きました。

「おお、28やん。オレも今気づいた」

草冠と、その下の八の字で、二十八と読めます。

「え?」

彼女はきょとんとしていました。

「いやだから、にじゅうとはちで、その命日を表してるんでしょ?」

「…ほんとだあ」

「え、違うの?」

「いや、そっちが正しいんですよねたぶん」

「何よ、教えてよ」

「いや、いいです」

しばらく押し問答した末、彼女は折れて文字を書き足しました。

「これね、縦書きなんですよ」


「目をつぶされた子供が、竹の枠に首から下がってるの、わかるでしょ?」

関連記事

ひょっとこのお面(フリーイラスト)

ひょっとこのお面

俺の爺さんには従兄が居たらしいのだが、十代前半で亡くなっている。 それがどうも不自然な死に方だったらしく、死んだ当時は親戚や近所の連中に色々騒がれたのだそうだ。 ※ 戦後すぐ…

扉(フリー写真)

会社の開かずの間

うちの会社には、開かずの間がある。 嘘みたいな本当の話で、確かにある。 会社は3階建て。その3階の端に資材倉庫があり、その倉庫の奥に扉が設置されている。 新人の頃、資…

階段

日暮里駅の階段

友人との怪談話の中で、ある興味深い話を耳にしました。それは、日暮里駅の改札を出て右手にある階段での話です。友人の知人から聞いたというその話では、「その階段の23段目で振り返ると、面白…

お葬式

数年前、深夜の0時頃に、その頃付き合ってたSから電話が掛かってきた。 切羽詰まったような声と口調で、話の内容がいまいち理解出来ない。 外にいるみたいなので、取り敢えず家まで…

ドアを開けるな

アパートに一人暮らしの女子大学生Sさん。 大晦日の夜、大掃除も終えて年越しテレビを見ていた。 携帯電話が鳴った。いたずら好きの友人Tからだ。 T「今バイト終わったから…

冬の森(フリー写真)

森の中の奇妙な人影

ある寒い冬の夜、若者のタカシは深い森を通って家に帰る道中でした。 彼の家は山奥にある小さな村で、最寄りの町からは車で数時間かかる場所にありました。 その日、タカシは町で仕…

山(フリー写真)

禁断の地

これは俺の祖父の父(曽祖父)が体験した話だそうです。 大正時代の話です。大分昔ですね。曾爺ちゃんを仮に「正夫」としておきますね。 ※ 正夫は狩りが趣味だったそうで、暇さえあれ…

踊り狂う血まみれの女

すっげー昔のガチ話な。 俺の実家はA県H市なんだけど、殺人事件があったんだ。 生まれる前だったんで人から聞いた話。 場所は映画館の近くにあるアパートの2階、犯人は小学…

霧の立ち込める山(フリー写真)

鷹ノ巣山の霧

大学2年の6月に不思議な体験をしました。 当時、私は大学の野生生物研究会に入っていました。 研究会のフィールドは奥多摩の鷹ノ巣山で、山頂付近の避難小屋を拠点にデータの収集を…

キジムナー

あまり怖くないが不思議な話をひとつ。 30年くらい前、小学校に行くかいかないかの頃。 父の実家が鹿児島最南端の某島で、爺さんが死んだというので葬式に。 飛行機で沖縄経…