手伝うよ

eki-home-nagano

私が通学する駅は自殺の多い駅だ。

そのせいか、電車の急停止が多い。

急停止が多いあまり、学校や会社に遅れても「電車が」「自殺があって」と言えば遅刻扱いにならず、受験は余った教室で受けさせてくれるなど、朝が苦手な人には好都合だった。

そんなある日、私が何気なく駅のプラットホームにぼーっと立っていたら、いきなり男に肩を掴まれ「手伝うよ」と言いながら線路に落とそうとしてきた。

男の服装はきれいなスーツに顔は普通の25~30歳の人。

しかし口角が異様に釣り上がっていて不気味だった。

高校で柔道部に入ってたのでとっさに男を線路側へ投げたが「しまった」と思った。

正当防衛だったと言えば何とかなるとビクビクしながら考えていたが、線路には男の姿は無かった。

気味が悪いと思ったが気にせず電車に乗り、いつも通り学校へ向かった。

そして私は高校と大学を卒業し、社会人として世に出た。

高校の頃のあの事件を忘れかけていたある日。

駅が混んでいたせいで後列に並んでいた。

何気なく前列の方を見ていたら、小柄な男子高校生らしき子が並んでいた。

すると、その高校生の後ろからきれいなスーツ姿の男が近づき、高校生の耳元で何かを言った後、肩を掴んで線路へ走り出した。

私は思った。5年前と髪型、姿、身長、顔、全てが同じ人は居るのだろうか。男を擬視した。

その時、一瞬後ろを向いた男と目が合った。口角があの時と同じように釣り上がっていた。

僅か2~3秒のことだったが、30分のような長い時間に思えた。

ハッと我に返ると周りで「キャー」とか「おうぇ」とか聞こえてきた。

また自殺らしい。男子高校生一人の。私は上司に遅れると電話をかけた。

ちなみにその後も自殺は減らないと言う。原因は何なのだろう?

関連記事

真っ白ノッポ

俺が毎日通勤に使ってる道がある。田舎だから交通量は大したことないし、歩行者なんて一人もいない、でも道幅だけは無駄に広い田舎にありがちなバイパス。 高校時代から27歳になる現在まで…

夜空の月(フリー写真)

砂利を踏む足音

学生の頃、実家を離れて大学の寮に住んでいた。 田舎の学校で、その敷地から歩いて20分程度の場所にある寮だった。 周りは住宅地で、古くからあるお宅と、ベッドタウン化による新興…

旅館(フリー素材)

仮母女(かもめ)

若干の脚色はありますが、友人の兄の体験を本人目線で書いたものです。 ※ 今日は彼女の洋子と初めての一泊旅行。と言っても、家から電車で二時間ほどの県内北部にある温泉旅館だが…。 …

割れたスイカ

あれは10年くらい前の暑い夏の日でした。 俺は仕事で車を運転していて、それまで順調に流れていたのに急に渋滞し始めた。 『くそー、なんだよ…』 渋滞しているけど、ゆっく…

ワームホールの出現

私が二十歳になって初めての選挙の時のことだから9年程前の話です。 その日の朝、初めての選挙で投票に行ったんです。 投票所が私の母校の小学校の体育館で、そこに入るのは卒業式以…

夜道(フリー写真)

連れて帰ったもの

私が小学3年生の夏休みに体験した話。 私が住んでいた所は凄い田舎で、地域の子供会の恒例行事で七夕会があった。 七夕はもう過ぎているけど、要するに皆で集まって、クイズなどの出…

峠

かんのけ坂

今年の2月に起きた本当の話。 大学4年で就職も決まり、学校生活も落ち着いたので、念願の車の免許を取るべく免許合宿に行ったんだ。 俺の地元は近畿なのだが、合宿場所は中国地方だ…

飲食店(フリー素材)

身代わり

少し昔の話をする。 私の友人が飲食店の店長をする事になった。 その店に行きたいと思いつつなかなか都合がつかず、結局その店に行けたのはオープンから一ヶ月が過ぎようとしている頃…

病院への道

数年前に務めていた病院が東北の田舎の山間にあったんだけど、ほんの少し一緒に働いてたおじさんに聞いた話。 「大分昔の事だよー」と前置きしてから話してくれた。 世間でいうお盆休…

悪夢を見せる子守唄

もう時効だと思うから、結婚前に告白する。 うちには代々伝わる「相手に悪夢を見せる子守唄」っていうのがある。 何語か分からないけど、詩吟とかに近い感じで、ラジオ体操の歌ぐらいの短…