ハンバーグ

humberg

私が中学生の時の事です。

母がスーパーで手作りハンバーグを買ってきました。

真空パックに入った調理済みのものではなく、そこのスーパーの肉屋さんでひき肉をこねて成形し、後は焼くだけという状態にして売っていたものです。

普段ならハンバーグは家で作っていたのですが、その日母は体調が良くなかったため、焼くだけで済むそれを買ってきたのでした。

私は「出来合いのものだしなぁ」と大して期待はしていなかったのですが、焼き上がったハンバーグは予想に反しなかなか美味しそうでした。

「いただきまーす!」

私はハンバーグを食べやすい大きさに切ろうとナイフを入れ、ハンバーグを刺したフォークを横にずらし、そのままの格好で凍りつきました。

ナイフを入れたハンバーグの断面…本来であれば肉汁が染み出して、食べ盛りだった私の食欲をそそったであろうその部分にあったのは、おびただしい本数の髪の毛!

左右に切り分けられた肉と肉の間に、橋のように、びっしりと。

その数は10本や20本ではありませんでした。

フォークを動かすとそれが肉の間からびぃーっと抜けていって…その日は気持ちが悪くてろくに晩御飯を食べられませんでした。

1本や2本なら知らないうちに入ってしまうこともあると思うので仕方が無いですが、あの本数は故意に入れられたとしか思えません。

何かの事故でひき肉の中に混入してしまったものかとも思いましたが、髪の毛はハンバーグの表面には1本たりとも、その毛先さえ出ていなかったのです。

何者かが、大量の髪の毛を丁寧に丁寧にひき肉で包んだのだと思い、その異常さにぞっとしました。

そのスーパーには母が苦情の電話を入れました。

それ以来、我が家の食卓に出来合いのハンバーグが並ぶことはありません。

私はしばらくは家で作ったもの以外のハンバーグを食べることができませんでした。

肉を切るとまた、何十本もの髪の毛が糸を引くのではないかと思うと…。

関連記事

介護の闇

家には痴呆になった祖母がいる。 父方の祖母だが、痴呆になる前も後も母とは仲が良く、まめに面倒を見ている。 これは年末の深夜の話。 祖母の部屋から、何やらぼそぼそと呟く…

祭祀(長編)

近所に家族ぐるみで懇意にしてもらってる神職の一家がある。 その一家は、ある神社の神職一家の分家にあたり、本家とは別の神社を代々受け継いでいる。 うちも住んでいる辺りではかな…

画鋲

幼稚園の頃に画鋲を飲まされそうになった経験があります。 当時、私のいた幼稚園のサクラ組では「嘘はつかない」という簡単な法律があり、毎朝のHRでは「うーそついたら、針千本のーます♪…

クシャクシャ

その日はゼミの教授の話に付き合って遅くなり、終電で帰ったんだ。 俺の家は田舎で、それも終電という事もあり俺以外は車内に人は居なかった。 下車するまでまだ7駅もあったから、揺…

神秘的な山道

おまつり

俺の生まれ育った村は、田舎の中でも超田舎。もう随分前に市町村統合でただの一地区に成り下がってしまった。 これは、まだその故郷が○○村だった時の話。俺が小学6年生の夏のことだった。…

石段

黒い鳥居

これからするお話は、今から20年以上前、僕が中学生の時の話です。 当時の僕は悪い先輩達と付き合いがあり、暴走やタバコ、シンナー等、不良っぽい事をして意気がる田舎ヤンキーでした。 …

長袖の下に

小学校の時に転校してきた奴で、少し変わった奴がいた。 家はやや貧乏そうで、親父さんがいないみたいだった。 お袋さんは2、3回見たことがあるけど優しそうで普通に明るい人だった…

ポコさん

私の住んでいた家の近くの公園には、いつもポコさんという大道芸人みたいなおじさんが週に3回来ていた。 顔は白粉か何かで白く塗り、眉毛は太く塗り、ピエロの様な格好でいつもニコニコして…

夜のビル街(フリー写真)

呻き声

俺のツレはいわゆる夜中の警備のバイトをしていて、これはそのツレにまつわる話。 ある日、そいつが言うには、 「何かさ、最近、バイト中に鳴き声がするんだよな」 「まあ、近…

女性

リゾートバイト(中編)

次の日、殆ど誰も口を利かないまま朝を迎えた。沈黙の中、急に携帯のアラームが鳴った。いつも俺達が起きる時間だった。 覚の体がビクッとなり、相当怯えているのが窺えた。覚は根が凄く優し…