真夜中の訪問者

R0014080

私には父親が生まれた時からいなくて、ずっと母親と二人暮しでした。

私がまだ母と暮らしていた17歳の頃の事です。

夜中の3時ぐらいに「ピーー」と玄関のチャイムが鳴りました。

丁度その日は母と夜中までおしゃべりをしていて、2人とも起きていました。

「こんな遅くに誰だろね」

なんて話しつつ、私がインターフォンを取りました。

そうすると女性の声で、

「あの…あの…突然すみません…。今晩、あの…泊めて頂けませんか」

声の感じでは40代ぐらい。その妙におどおどしていた感じが気になって、

「え?泊めてくださいって、母の知り合いの方ですか?」

と聞き返しました。すると相手は、

「いえ…全然違うんです…あの…私近所のマンションに住んでまして、あの…私会社をクビになって…あの…、もう住む所がなくて…だから泊めて頂きたいと…」

話がよく理解できなかった私は、

「母の知り合いではないんですね?でも泊めるのは…」

と、おろおろしてしまいました。そこで見かねた母が、

「私が代わるから」

と言って、インターフォンで話し始めました。

私は『一体なんなんなんだろ?』と思って、玄関の窓越しに相手を見に行きました。

私が玄関の窓越しに見たその女性は、明らかに変な人でした。

まず、顔はどうみても50代なのに金髪の長髪。

白い帽子を被っていて、明るい緑のブラウスに、赤地に白の水玉のふわっとしたスカート。

右手にはたくさんの物が入った紙袋を持っていました。

その様子を見て、これは変な人だと察知した私は、まだインターフォンで話している母に、

「ちょっとママ!玄関に来てる人、絶対変!怖いからもうやめよう!相手にしないで『駄目です』って言って断ろう!」

とまくし立てました。

そしたら母は、

「ははははは」

と笑って、

「なんかこの雨の中、傘もなく歩いてきたんだって。怖いなら傘だけでも貸して帰ってもらおう」

と言うじゃありませんか。

その日は確かに雨がざんざん降りでした。

私はもうその人の外見を見てるので泣きたくなって、こういう事にだけは度胸がある母を恨みました。

私は怖くなったので、玄関から離れた奥のリビングから玄関の様子を伺っていました。

母が玄関を開けて話している声が聞こえてきて、しばらくすると

「家には入れられません!帰ってください!」

と母の怒鳴り声が聞こえました。

私は普段、母の怒鳴り声なんか聞いたこともなかったので、それだけでかなりビビッてしまい、その時点で涙目になっていました。

玄関では「ガチャガチャガチャガチャ!!」とチェーンの付いた扉を無理やり開けようとする女性と、閉めようとする母が出す音が大きく響き渡り、17歳の私を泣かせるだけの迫力がありました。

でも、その押し問答の最中も聞こえてくるのは母の声だけ。

相手の声はしません。

やっと「バタン!」と玄関が閉まる音がして、母がふぅふぅ言いながら部屋に帰ってきました。

「あの人、やっぱりあなたの言う通りだね。頭おかしいみたい。怖かったでしょう、ごめんね」

と母が言うので、

「なんかされたの?大丈夫?」

と聞き返しました。

すると母はまた笑って、

「いやいや、全然大丈夫。今日はもう寝なさい」

と言いました。

しかし、この話をしている最中にまた玄関のチャイムが「ピーピーピーーピーーー」と物凄い勢いで鳴り始め、今度は玄関のドアが「ドンドンドンドン!!」と叩かれました。

私のビビり具合は最高潮に達して、

「警察に電話しようよ!」

と泣き始めました。

母は、

「あとしばらく続くようなら警察を呼ぼう。あなたはもう寝なさいって。大丈夫だから」

と言い、寝る準備を始めました。

私は怖くてなかなか寝付けず、しばらく玄関の音に耳をすませていました。

玄関の音は30分ぐらいで止みましたが、それ以来しばらくは夜中のお客さんは怖くて怖くて仕方ありませんでした。

その夜の出来事から5年後、私は一人暮らしを始める事になりました。

明日から新しい部屋で暮らす事になった晩に母と話をしていて、

「そういえば、あんな事があったね~。私怖くて怖くてめっちゃ泣いた記憶がある(笑)」

と話したら、母が、

「う~ん、あれだけで怖がってるようじゃ、大丈夫かしらね、一人暮らし」

と言うので、

「あれだけで?」

と聞いたら母が言うには、

「私ね、あの時あなたが物凄い怖がってたから、言わなかったけど、まずあの人ね、雨が降ってる中歩いてきたっていったのに、全然雨に濡れてなかったのよ。で、左手にバットを持ってたの。しかも、あの人、男の人だったよ」

私が腰を抜かしたのは言うまでもありません。

警察呼んでよママ…。

「なんで警察呼ばないの~!!!」

と言ったら、

「なんだか逆恨みされそうじゃない、家はもう知られてるし」

その次の日から一人暮らしをする事になった私ですが、怖くてしばらくは実家に帰っていました。

みなさんも夜中の来客にはお気を付けください。

関連記事

田舎の景色(フリー写真)

よくないもの

自分、霊感ゼロ。霊体験も経験無し。 だから怖い怖いと言いながら、洒落怖を見てしまうのさね。 何年か前、当時大学生だった親友Aから奇妙な頼まれ事があった。 そう…ちょう…

い゛れでぇぇ…

友人は最近仕事が忙しく、自宅に帰るのは午前2時~3時になっていたそうです。 この自宅というのは、8階建てのマンションで7階にある部屋です。 いつものように、帰りが2時を過ぎ…

夜の砂浜

夜の砂浜

昔、一人で海辺の町に旅行したことがある。 時期的に海水浴の季節も過ぎているため民宿には俺以外客は居らず、静かな晩だった。 俺は缶ビール片手に夜の浜辺に出て、道路と浜辺を繋ぐ…

集落(フリー素材)

武君様

俺の住む集落には、『武君(たけぎみ)様』という神様が祀られている。 何でも、この集落を野武士などから守り命を落とした青年が神と成り、今もこの集落を守っているらしい。 この『…

母からの手紙

息子が高校に入学してすぐ、母がいなくなった。 「母さんは父さんとお前を捨てたんだ」 父が言うには、母には数年前から外に恋人がいたそうだ。 落ち込んでいる父の姿を見て、…

おどって

一年くらい前に誰かがテレビで喋っていた話。 ある女の子が夢を見ていた。 夢の中で女の子は家の階段を登っている。 すると誰かに足を掴まれた。 振り向くと皺くちゃの…

星空(フリー写真)

光の玉

十数年前、私が6歳、兄が8歳の時の話。 私たちはお盆休みを利用し、両親と四人で父の実家に遊びに行った。 その日はとても晴れていて、気持ちが良い日だった。 夜になっても…

天国と地獄(フリー写真)

連れて行く

2年前、とある特別養護老人ホームで、介護職として働いていた時の話です。 そこの施設は、はっきり言って最悪でした。 何が最悪かと言うと、老人を人として扱わず、物のように扱う…

工事現場(フリー写真)

持ち出された藁人形

俺は建設会社で現場作業員をしています。 ある年の年末、道路工事の現場で働いている時の事でした。 一日の作業を終えてプレハブの現場事務所へ戻ると、ミーティング時に使う折り畳み…

鬼が舞う神社

叔父の話を一つ語らせてもらいます。 幼少の頃の叔父は、手のつけられない程の悪餓鬼だったそうです。 疎開先の田舎でも、畑の作物は盗み食いする、馬に乗ろうとして逃がすなど、子供…