お姉ちゃんと鬼ごっこ
公開日: 不思議な体験 | 死ぬ程洒落にならない怖い話
神隠しみたいなものに遭ったことがある。小学一年生の夏休みのことだ。
実家はいわゆる過疎地にあり、地域には同い年の子が数人しか居なかった。
その日は遊べる友達が居なかったので、私は一人で外をフラフラしていた。
「大人の目の無い場所には行くな」とか「一人で山に入るな」などと言われていたが、どうせ平気だろうと高をくくり、忠告を無視して林道に入った。
そしたら見たことも無い可愛いお姉ちゃんに会った。
7歳の子の認識するお姉ちゃんだから、多分小学校高学年か中学生くらいだと思う。
お姉ちゃんは私と遊んでくれることになり、
「年上の私が一緒だから大丈夫」
と言って、私を山に誘った。
ささやかな冒険心からか、私はほいほい付いて行ってしまった。
※
私とお姉ちゃんは山で鬼ごっこを始めた。お姉ちゃんが鬼だった。
最初は楽しく追いかけっこをしていたのだが、たまたま廃屋を見つけたので、お姉ちゃんを撒いて隠れることにした。
するとお姉ちゃんの様子が変わった。
お姉ちゃんは優しげだが、どことなくヒステリックな声で私を呼び始めた。
お姉ちゃんを撒いた場所から廃屋まではそれなりに離れていたはずだが、それでも聞こえるほどの大声だった。
やがてガラスが割られる音などがして、お姉ちゃんが廃屋の中を探し始めたことが解った。
ふすまを蹴るような音もした。どう考えても尋常ではない怒り方だった。
ちなみに私は空の押し入れに隠れていただけなのだが、どういう訳かお姉ちゃんは私を見つけられないようだった。
お姉ちゃんは廃屋の中を歩き回りながら、
「出て来て、ここでおままごとしよう」とか、
「それとも、このお家にお姉ちゃんとお泊まりする?」などと言っていた。
その内、お姉ちゃんは狂ったように「出て来い」「出せ」「助けて」などと喚き始めた。
私は怖くて、押し入れの中で小さくなっていた。
※
その後どうなったのか覚えていないが、いつの間にか私は男の人と明け方の竹林を歩いていて、色々と説教を聞かされていた。
「大人が物事を禁止するのには理由がある」とか「子供が一人で出歩くのは良くない」とか…。
その人は私を舗装された道路まで送ると「あとは自分で帰れ」と言い、どこかに行ってしまった。
そこは地元から峠一つ越えた所にある、母の実家のすぐ側だった。
※
玄関の戸を叩くと祖母が現れ、その場で私を抱き締めて大泣きし始めた。
取り敢えず私は風呂に入れられ、その間に両親と父方の祖父母が呼ばれていた。
失踪中のことを話しても、両親にはあまり信じてもらえなかった。
ただ祖父母たちは、お姉ちゃんと遊ぶことになった経緯を聞いて顔色を変えた。
きっと何か知っていたのだろうが、詳しいことは未だに聞けないままだ。
※
後日、私が失踪した日に近所の山で山火事が起こっていたことを知らされた。
焼けた範囲内に、全焼はしなかったが廃屋が一軒あったらしいことも。
消防署のおじさんたちも私の失踪を知っていたので、消火後真っ先に廃屋を調べたが、中には誰も居なかったそうだ。
祖父母たちの強い薦めで、父の実家(林道の近く)から母の実家に引っ越して今に至る。
あの朝、男の人と歩いていたのは、どうやら母の実家の近所の竹林だったようだ。
そこには小さな古いお社があり、火の神様が祭られているらしい。
※
補足1
お姉ちゃんと会ったのは、八月某日の昼前。多分10時~11時くらいだと思う。
押し入れにはかなり長時間隠れていた。
少なくとも引き戸の隙間から差し込む光が、昼間の陽の色から夕日の色に変わるまでは。
祖母宅に着いたのは、翌々日未明。
つまり丸二日近く私は行方不明で、その間に近所の山中も捜索されたが発見されず。
警察には通報されていない。
※
補足2
山火事は私が出かけてから、幾らも経たない間に発生したらしい。
かなりの規模で、私が帰って来た日の夜にようやく消火作業が終了したとのこと。
消防署のおじさんはファイヤーマンではなく地元の自警団員なので、少々危険だったが真っ先に廃屋を調べてくれた。
廃屋は割と燃え始めた場所の近くにあったそうだ。
火元はよく判らなかったそうだが、登山者のタバコの火、ということになっている。
※
補足3
大学生時代、「心霊スポット行こうぜ」と言う友人と一緒に件の焼け落ちた廃墟に入ったことがある。
火災に遭った割にはあまり煤けていない押し入れがあり、引き戸に「◎」みたいなマークが墨かマジックのようなもので描かれていた。
どう見ても私が隠れたところです。
ガチムチ系の友人がそれを開けようと試みたが、ピクリともしなかった。
開かないのではなくて、まるで作り物のように動かない。
霊の類は出なかったが、それが気味悪くて早々に引き上げた。