夢幻と現実の間で

黒い霧(フリー写真)

私の母方の実家は熊本県にあるのですが、そこには常住している母の姉がいます。

その姉、私たちからはおばさんと呼んでいる彼女が、つい先日、我が家に遊びに来ました。

その時、偶然にも映画『ターミネーター2』が放映されており、我々は皆でその映画を見ていました。

その映画の中には、核爆発後の光景を想像するシーンがあり、遊んでいた子供たちが焼けてしまう描写が含まれていました。

そのシーンを見つながら、

「一瞬で皮が剥け落ちるのか、恐ろしい」

というような会話をしていたところ、おばさんが何気なく驚くべきことを語り始めました。

おばさんの長女がつい先日、双子を出産したのです。

長女はか弱い女性だったため、非常に難産だったそうです。

出産は予定よりも早く、2ヶ月前からすでに入院していました。

そのため母体も危険な状態にあり、最終的には帝王切開で出産することになったとのこと。

現在では母子ともに元気ですが、その時おばさんは初孫ということもあり、心配のあまり夜も眠れなかったそうです。

ある日、病院から帰ってきたおばさんの家に、電話がかかってきました。

相手はおばさんの幼馴染だったのです。

その幼馴染はかつて近所に住んでいたのですが、ある時期を境に引っ越してしまったそうです。

それでも仲が良かったため、長らく連絡を取り合っていました。

しかし、ここ10年ほど、突然連絡が途絶えてしまったのです。

長女のことで心が疲れていたおばさんは、思いがけない懐かしい人からの電話に非常に喜びました。

早速、近況報告をしようとしたその時、おばさんの幼馴染は予想もしないことを口にしました。

「私、今神様やってるの。たくさんの人たちを救っているわ。

何か困ったことがあったらいつでも電話して。助けてあげられるわよ」

かつての彼女と変わらぬ明るい声で、そのようなことを語りました。

非常識なことを普通に言われたため、おばさんはただ「ああ、そう…」と答えるしかありませんでした。

しかしその夜、自分の娘と生まれてくる赤ちゃんのことを考えながら、おばさんは疲れていたのかもしれません。

あの電話のことを思い出し、

『もしかしたら、これも何かの縁なのかもしれない。明日頼んでみよう』

と思ったのです。

何かに縋ることができたからか、おばさんはその夜、久しぶりに深い眠りに落ちました。

その夜、おばさんの夢の中には娘と幼馴染が登場しました。

娘は何故か妊娠しておらず、3人は仲良く遊んでいました。

幼馴染も笑顔で、お花畑のような場所で、とても幸せな夢でした。

それらのシーンの中で、ある球体がおばさんの方へ飛んできました。

おばさんはその球体を受け止めたのですが、その球体から皮がずるりと剥がれるように、大きな幼虫のようなものが現れました。

その様子に驚いたおばさんは思わず悲鳴を上げました。

しかし、幼虫のようなものは絡み付いて離れず、誰かに投げようとしてもできませんでした。

その時、おばさんの視線はとっさに娘より幼馴染の方に向けられました。

その幼馴染は見ていて、狂ったように笑っていました。

その目は全て黒目で、まるで穴が開いているかのようでした。

幼虫の鳴き声と幼馴染の子供の笑い声が響き合い、重なりました。

その光景に怯えたおばさんは飛び起きました。

全身は汗でびっしょりとしていました。

「その時、私は思ったのよ。あの幼虫は赤ちゃんだって。どうしてか分からない。

人間の姿なんてもちろんしてなかったし、泣き声は獣のようだった。

でも、絶対に赤ちゃんだと思ったの。

それがとても不吉に感じて、それからせっかく連絡してくれた幼馴染に、恐くて連絡できなかったの」

とおばさんは語りました。

その後、何とか無事に赤ちゃんは生まれ、その電話の存在も忘れてしまいました。

そしてある日、何気なくつけたテレビのワイドショーに、幼馴染の名前と、現実とはかけ離れた年老いた女性の顔が映し出されました。

近年になって報道された事件をご存知でしょうか。

怪しげな新興宗教を信じて、亡くなった我が子の皮を剥ぐと生き返るという話に誘われ、その通りにしてしまった若い夫婦。

その神様として信じられていたのが、なんとおばさんの幼馴染だったのです。

あの幼馴染が…。何不自由ない家庭環境にいたはずなのに、おばさんが知らない10年の間に一体何が起こったのか。

おばさんは怖さよりも悲しみが募り、涙が止まらなかったそうです。

「もし、私が彼女に相談していたら…」と、おばさんは後悔の念を抱いたのでした。

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