走って来る人影

エレベーターのボタン(フリー写真)

その日は仕事帰りに買い物のため、自宅近くのショッピングモールに寄りました。

時刻は20時過ぎだったと思います。

そのショッピングモールは、デパートと言うには小さ過ぎる地方の商業施設です。

普段着などのちょっとした買い物にはとても便利なので、私はちょくちょく利用していました。

建物は6階建てで、5階と6階が駐車場、商業施設は地下1階から地上4階までの5フロアです。

そして地下1階は現在改装中で立ち入り禁止となっていました

モールは21時に完全閉店なので、20時半くらいだったその時間にはフロアの殆どの店が閉店準備をしていて、緑色のネットが掛けられていました。

私は4階で買い物を済ませた後、店の人にも悪いし急いで帰ろうとフロアの端にあるエレベーターへと向かいました。

エレベーターに乗り込むと、私は1階のボタンを押しました。

そのエレベーターには何度か乗ったことがあるのですが、窓がなくて息苦しいし、照明は暗いし、動きは遅いし音は大きいし、後ろに付いている鏡がやたらと大きいしで、あまり居心地の良いものではありませんでした。

エレベーターが動き出してからふとボタンを見ると、押したはずの1階にランプが点いておらず、その一つ下の地下1階にランプが点いていました。

押し間違えたのだなと思ってもう一度1階のボタンを押してみましたが、ランプは点きません。

エレベーターは低く稼働音を響かせながら、どんどん下降して行きます。

そしてそのまま工事中で立ち入り禁止であるはずの地下1階に到着し、扉がゆっくりと開きました。

工事中のそこは照明が一切点いておらず真っ暗で、誘導灯の灯りだけが緑色に光っていました。

もちろんテナントは一切なく、がらんとした空間が広がっています。

何だか気味が悪くなったのですぐに閉ボタンを押して1階に上がろうと思ったのですが、扉が閉まりかけたその時、視界に何かが映りました。

暗闇に慣れていない目で最初は何だかよく判らなかったのですが、どうやら閉まりかけのエレベーターに乗ろうと走って来ている人のようでした。

そこで私は開ボタンを押して待つことにしたのですが、暗闇に慣れてきた目でもう一度その人影をよく見てみると、走って来るその人影はゆうに2メートルはありそうなほど背丈が高く、異様に頭が小さくて、とても痩せていました。

そんな姿をした人が真暗なフロアを、両手を後ろで組んだような感じで、くねくねと身をよじらせて倒れそうなのを堪える感じでこちらに向かって移動して来ていました。

怖くなった私は急いで閉ボタンを押しました。それを見て急いだのか、その人影はより一層身をよじらせながらこちらに向かって来ました。

私は怖くて怖くて何度も閉ボタンを押しました。

ようやくゆっくりと扉が閉まり始め、その時、誘導灯の光に照らされてその人影の姿が少し見えたのですが、頭に髪の毛はなく坊主頭のように見えました。

それとよく見てはいないのですが、裸足だったことを覚えています。

扉が閉まった後も馬鹿みたいに閉ボタンを連打していたのですが、エレベーターはなかなか動き出しません。私は1階ボタンを押すのを忘れていました。

慌てて1階ボタンを押したのと同時に、エレベーターの扉から「ドン!」と物凄い力で叩いたような音がしました。

私はまたしても1階ボタンを連打しながら、1階に着いたと同時に走って外に飛び出しました。

その後はすぐに友達に連絡し、迎えに来てもらいました。

この話は友達にはしませんでした。

関連記事

謎の男のシルエット

成りすまし

大学4年生の11月、Aの就職がようやく決まった。 本人は小さな会社だと言っていたが、内定を貰えたことに変わりはないし、晴れて仲間内全員の進路が決まったことで、1月に旅に行く運びと…

モノクロ部屋

鏡に映った予兆

これは、私の知り合いの女性が体験した、決して笑い話にはならない恐ろしい出来事です。いくつかの詳細は変更してありますが、その核心は実際に起こったことです。 その女性、24歳の彼女…

田んぼ

蛇田

自分の住んでいる所は田舎の中核都市。 田んぼは無くなっていくけど家はあまり建たず、人口は増えも減りもせず、郊外に大型店は出来るものの駅前の小売店は軒並みシャッターを閉めているよう…

ネットカフェ(フリー写真)

ネットカフェの恐怖体験

ネットカフェを三日間連続で利用したことがあったんだけどさ、36時間以上は連続利用出来ないから一度追い出されるのね。 今までマッサージチェアやリクライニングチェアがある部屋しか使わ…

赤ちゃん(フリー写真)

違和感

私の母方の祖母は、以前産婆をしていました。 以前と言ってもかなり昔で、今から50年前くらいになると思います。 「どんな子も小さい時は、まるで天使のようにかわいいもんだ」 …

千寿江(長編)

もう色々済んだから、書かせてくれ。かなり長い。 父親には妹がいたらしい。俺にとっては叔母に当たるが、叔母は生まれて数ヶ月で突然死んだ。原因は不明。 待望の娘が死んでしまい、…

自殺志願

年月が経つにつれ自信がなくなっていく思い出です。 俺が19歳の頃の話です。高校は卒業していましたが、これといって定職にもつかず、気が向いたら日雇いのバイトなどをしてブラブラしてい…

ビデオテープ

OLのAさんが仕事を終えて自宅へ帰り着くと、郵便受けに1本のビデオテープが入っていた。 中身が気になったAさんは、早速そのビデオテープを再生してみたのだった。 夜中に電気を…

根絶やしの歌

本当の話です。というより、現在進行中なんですが…。 私は今まで幽霊どころか不思議なことすら体験したことがない人間なんですが、最近どうもおかしなことが続いているので書き込みします。…

登山(フリー写真)

伸びた手

8年前の夏、北陸方面の岩峰に登った時の話。 本格登山ではなくロープウエーを使った軟弱登山だった。 本当は麓から登りたかったのだが、休みの関係でどうしようも無かった。 …