記憶に刻まれた「一度目の死」

庭の地面

物心がついた頃から、私はこう語っていた。

「僕は一回、死んだんだ」

幼い子どもの妄言と思われるかもしれないが、私は本気だった。というより、その“死んだ記憶”は今でも鮮明に心に残っている。

なぜ自分が死んだのか、その理由もはっきり覚えている。それは、おそらく「生まれる前の記憶」ではないかと、自分では思っている。

私の実家は、一つの敷地内に二つの住まいがあった。一つは「隠居」と呼ばれる祖父母の住居、もう一つは「勝手」と呼ばれる核家族の家。両者の間には車が悠々と通れるくらいの道があった。

その道の真ん中——つまり隠居と勝手のちょうど間の場所で、私は囲まれていた。

周囲には、祖父母、両親、親戚らしき人々、そして見知らぬ者も混ざっていたかもしれない。皆が私を無表情で取り囲んでいる。

その中心で、ばあちゃんが斧を手にしていた。

そして、私はその斧で殺された——そういう記憶が、はっきりとあるのだ。

もちろん現実ではそんなことは起きていないし、私は今もこうして生きている。

しかし、あまりにもリアルな記憶だったため、物心がついて以降、自分の中では「一度死んだことがある」という認識がずっと消えなかった。

もしかすると、あの記憶の中の自分は、別の命だったのかもしれない。

たとえば、その家で飼われていた鶏や、別の動物だったのではないかという気もしている。

人の記憶とは不思議なもので、前世なのか、夢なのか、それとも何か別の次元から見た“記録”なのか——今もその答えは見つかっていない。

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