無念のアザ
妹が小学生の頃、家族ぐるみで仲良くしていた母子家庭のAさん親子がいました。
うちも母子家庭だったので、すぐ仲良くなったみたいです。
私は当時高校生だったので、学校やバイトであまり家に居らず、挨拶程度の仲でした。
一方、妹はそのお宅へよく泊まりに行ったり、買い物や日帰り旅行などに連れて行ってもらったりと、Aさんにとても可愛がられていました。
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Aさんはいわゆる元ヤンの女性で、ヤンキーやヤクザの友人、知り合いが何人かいたようです。
うちにもAさん親子とAさんの友人であるヤクザ夫婦が何度か遊びに来ていました。
皆さん外見は怖かったですが、いつも優しく声を掛けてくれました。
妹は子供がいなかったヤクザ夫婦にも可愛がられており、よくAさん親子とヤクザ夫婦と一緒に居ました。
うちの母親が当時体調を崩しており、私も家にあまり居なかったのもあって、妹の面倒を買って出てくれていたようでした。
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しかし、ある日突然そのヤクザ男性が交通事故で亡くなったという連絡がありました。
その後、ニュースでも会社員という扱いで『交通事故の自損事故で死亡』と報じられていました。
妹は酷くショックを受けていました。
母親とAさんは葬式や通夜について話し合っていましたが、Aさんだけ行くことにし、母親は行かないことに決めたようです。
暫くしてから、そのヤクザ男性のお骨をAさんが一時預かることになったそうです。そして妹はAさん宅に泊まりに行きました。
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ところが、その夜22時頃に、妹はAさんの付き添いで帰って来ました。
母親は既に寝ていたので、私の部屋に入って来ました。
私は最初、妹の異変に気付かず携帯を弄っていました。妹はずっと無言で座っていました。
全く話さないので「どうしたの?」と聞くと、
「○○さん(亡くなったヤクザ男性)が出てきた」
と言いました。
「どういうこと?」と聞くと、
「線香を上げたらいきなり出てきて、腕をぐーっと掴まれた」
と言い、着ていたパーカーを脱ぎました。
すると両方の二の腕部分に、ドス黒い紫色の大きなアザがありました。
「何それ!」と驚くと、
「前から腕を掴まれたんだよ…。その後消えた」
と震えながら言いました。
とても信じられない話ではありましたが、目の前で妹の腕の変色したアザを見せられると、嘘ではないことは確かなようでした。
アザは指の形にくっきり付いていました。かなり強く掴まないと出来ないアザで、妹はかなり怖かったと思います。
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後で聞いた話だと、そのヤクザ男性は交通事故ではなく、交通事故を装い火だるまにされて殺されたというのです。
彼は自分の無念を、妹に伝えようとしていたのでしょうか。