廃墟ホテルの調査
俺がフリーの調査業をやっていた頃に経験した話です。
その時に受けた仕事は、とある出版社の心霊関係の特集の調査で、俗に言う心霊スポットを調査して事実関係を調べる仕事でした。
その時の調査で行った場所は、関東のとある山の中にある廃墟になったホテル。
まず心霊スポットによくあるのが、誰々がそこで殺された、または自殺したという話です。
そのスポットもご多分に漏れず、とある若い女の人が彼氏に殺され、その廃墟の壁に埋められていて、その女が霊となって出るというものでした。
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早速その殺人が実際にあったのか調査しようと、まずその地域の図書館で事件が起きたとされる年代の新聞などをチェックしました。
そして地元警察やその心霊スポットの地主、地元の人に聞き込みなどを行ったのですが、そのような事件が起きた痕跡や記録はありませんでした。
最後に現場調査と調査報告に使う写真撮影のため、一緒に仕事をしているもう一人の仲間の女性と夜中に現場撮影をしに行った時のこと。
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さすがに人気の無い山中ということもあり、かなり不気味。建物の中はかなりカビ臭い。
撮影は昼間でも良いのですが、やはり夜の写真が良いというのが依頼の内容に入っていたため、夜中に現場へ向かいました。
取り敢えず建物の外観や内部をカメラで撮影し始め、あらかた内部の調査も終わった頃に引き上げようと思い、建物内部にいるはずの彼女に大きな声で
「そろそろ引き上げようか」
と声を掛けました。すると彼女が、
「あ、待ってください。こっちの部屋に来てくれませんか」
と言うのでそちらに向かうと、何の変哲もない部屋がそこにありました。
さっき通った時は無かった気がすると思いながらも、部屋に入ると何だか魚が腐ったような臭いが、カビ臭さと入り混じってとにかく悪臭が凄かったです。
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そこには俺を呼んだはずの彼女は居なかったのですが、特に気にもせず部屋を見ると、壁が一箇所だけ塗り替えたように色が違う。
『ああ、これが壁に死体が埋められたという噂の元になっているんだな』と思い撮影をしていると、持っていた懐中電灯やカメラなどが全て急に電源が切れて使用不可になったんです。
暗闇の中で『参ったな…』と思っていると、部屋に入って来る足音が聞こえます。
「あのさ。明かりが消えちゃって点かないんだよ。きりが良いから引き上げよう」と言うと、彼女の声が
「もう少しだけここに残ろう…。ね?」と引き止めます。
俺が帰ろうと言っても、
「もっと撮影したほうが…」とか、
「壁を掘り返しましょう」などと言い、やたらと引き止めるんです。
「それならば明日にしよう」と言って帰ろうとすると、
「待ちなさい!」と俺の手を握ったんです。
その手の感触は今でも忘れません。
「ぶじゅっ…」と音がしたと思うと、俺の手を筋張っているのに物凄く柔らかくてどろどろしたような…表現し難いものが握ったんです。
「うわっ!」と手を離すと彼女が一言、
「もうちょっとだけここに残ろう。…ね? もうちょっとだから…」
その瞬間、俺はそいつが彼女ではないと恐怖を感じ、その場から一目散に逃げました。
月明かりだけだったのであちこちに体をぶつけて痛みも感じたけど、それどころではありませんでした。
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そして建物の外に出ると、車の前で彼女が待っていました。
彼女の話だと、撮影し始めてすぐに懐中電灯などが使用不可になったため、ここで待っていたとのこと。
『じゃ、さっきのは?』と思いました…。
その場からすぐに立ち去ろうと車に乗った時、彼女が「ひっ!」と声を上げ「あ…あれ」と震える指で車のミラーを指差しました。
俺はもう恐怖のためミラーを見たくありませんでした。
そのまま車を急発進させて町へ向かいました。
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そして全ての経緯をまとめて依頼主に報告。
事務所に戻って撮影したものを見ても、普通の写真と映像だけでした。
何も写ってはいなかった。
そして一緒に行った彼女が見たものを聞くことはありませんでした。
「思い出したくないんです」
…ただ、そう言っていました。
でも、きっとあの映像と写真に何かあったんだと思う。
最初は報告を受けて「おもしろいじゃないか。使えるよ」と乗り気だった依頼主が、急にそれらの使用を取り止め、写真と映像を処分したからです…。