知らない道路標識

公開日: 異世界に行った話

山道(フリー写真)

小学2年生の頃、仲の良かったタケシと一緒に、虫採りに学校の裏山へ行った。

その山は俺達の遊び場で、隅から隅まで知っている。まあ、山と言うより、中規模の雑木林のような感じだ。

突然タケシが、

「赤い蝶がいた!」

と言い走り出した。俺もすぐにその後を追う。

夢中で走って、息が切れた頃にタケシが立ち止まった。

「タケちゃん。どうした? 逃げられちゃった?」

「ああ、逃げられた。凄く大きな蝶だったぜ!」

その後も赤い蝶を探して歩いたが、とうとう見つからなかった。

日も暮れ始め、そろそろ帰ろうかということになり、帰り道を歩き始めた。

その山では『夕日に向かって歩く』という掟がある。

夕日に向かって歩けば道路に出られるからだ。

もし迷子になっても、夕日に向かって歩けば絶対に道路に出るという地形になっていた。

しかし、その時の俺達にはそんな掟は不要だった。

この山は知り尽くしている。だから迷子になって夕日を頼りにすることなんて有り得ない。

俺達はゲームの話をしながら歩いていた。

「あれ? 何これ?」

どういう訳か、通行止めの標識が立っている。道路なんて無い山の中にだ。

その時は道路標識がどういうものか知らない。今までこんな物は絶対になかった。

「何だろ? 道、間違ったかな?」

「そんな訳ないよ」

「でも、こんな道知らないぜ」

「…確かに見たこと無いね。迷子?」

「ちょっと、戻ってみよう」

危機感の欠片も無く、後戻りしてみる。

しかし、戻れど戻れど知らない風景。こんなことは有り得ない。

「え~!ここどこ?」

タケシが泣きそうになっていた。俺もこんな所は来たことがない。

取り敢えず、夕日の方向に歩き始めた。それがここの掟だ。

段々と日が暮れてきた。

夕日に向かって歩くと、すぐに道路に出た。

そのままタケシと別れ、俺の家まであと500メートルくらいの場所まで歩くと、後ろからタケシが物凄い勢いで走って来た。

話を聞くと、タケシの家で葬式が行われているらしい。

驚いて家に帰れず俺を追い掛けて来たと言う。

タケシにせがまれ、俺も一緒にタケシの家に行った。

本当に葬式が行われていた。

亡くなったのはタケシのお兄さんだった。

しかしタケシの家の前には誰もいない。鍵も掛かっていて、家に入れない。

泣きじゃくるタケシを連れて、取り敢えず俺の家に連れて来た。

「ただいまー」

と家のドアを開けるなり、オヤジが飛んで来た。

キョトンとしている俺を見るなり、平手打ちが飛んで来た。

そのまま家の中に連れて行かれ、散々に怒られた。

どうやら俺とタケシは、2日間行方不明になっていたらしい。

事情を話しても信じてもらえなかった。タケシの家で葬式などなかったと言われた。

それから一ヶ月は外に遊びに行けなかった。

ようやく謹慎処分が解けた後、タケシと山に行ったが、あの道路標識はなかった。

関連記事

古書店(フリー写真)

消えた友人

先輩と二人で仕事場に泊まり込んでいた日、休憩中にその先輩が聞かせてくれた話。 先輩曰く「友人に会えなくなった」らしい。 最初は単に仕事が忙しいからなのではないかと思ったのだ…

並行宇宙(フリー画像)

似た世界

よく時空を超えたとか、少し違う異世界を垣間見たという体験談が書かれているけど、俺もあるんだよね。と言うか、今まさに…なんだけどさ。 ※ 2年前の7月28日、俺は大阪に居た。 …

民家

きょうこさん

以前付き合っていた霊感の強い女性から聞いた話です。「これまで色んな霊体験してきて、洒落にならんくらい怖い目にあったことってないの?」と尋ねたら、彼女は深刻な表情で教えてくれました。 …

夢(フリー素材)

神隠しの夢

もう10年以上前、俺が中学校の頃の話です。 当時はしょっちゅう同じ夢を見ていまして。 左右が田んぼの長い田舎道を、一人で歩いているんですよ。 すると向こうの方から和服…

神奈川県某駅の駅ビル

小学校入るくらいまでの体験。 神奈川県某駅の駅ビルで、階段やエスカレータなど使わずに、3Fから4Fにワープした。駅との連絡口が3Fで、決まったルートを歩くと4Fに着いてる。 …

トンネル

帰らない友人

うちの近くに、背の高い草が茫々に生い茂った空き地がある。 陽の光が当たり難いだけでなく、元から妙に薄暗いため、非常に不気味な場所だ。 そんな場所は、やはり小中学生には格好の…

次元の歪み

先に断っておきます。 この話には「幽霊」も出てこなければいわゆる「恐い人」も出てきません。 あの出来事が何だったのか、私には今も分かりません。 もし今から私が話す話を…

天国(フリー画像)

人生のやり直し

俺は一度死んだことがある。 これだけだと訳が解らないと思うので詳細を説明する。 ※ 小一の頃、夏休みが終わり二学期が始まった。運動会や遠足もあったし、毎日普通に生活していた。…

沈まぬ太陽

もう10年も前の話だが、裏の世界のようなものを見た事がある。 当時の私は友達のいないぼっち女子中学生で放課後や昼休みは学校の図書館で専ら読書に勤しんでいた。 小さい図書館だ…

ワープ

会社の後輩に聞いた、その子の友人(Aさん)のお話。 Aさんが小学生の時、積極的だったAさんは、休み時間に校庭で皆とドッジボールをして、チャイムが鳴ったので一番に教室に駆け込んで行…