もうひとつの歴史

公開日: 異世界に行った話

黒板

高校時代、日本史の授業中に体験した、今でも忘れられない不思議な出来事がある。

あの日の授業は、いつにも増して退屈に感じられた。

教室は午後の陽射しでほんのりと温かく、眠気を誘う空気が漂っていた。

私はなんとか眠気を振り払いながら、黒板に書かれる内容をノートに写し取ろうと必死だった。

というのも、その日本史の先生は、板書を終えるとすぐに黒板を消してしまうので、気を抜いていると授業についていけなくなるからだ。

目を開けているつもりでも、どうやら私はほんの数秒間、意識を失っていたらしい。

ふと我に返って、自分のノートを見て驚いた。

そこには、まるで夢うつつの中で書いたような、へろへろとした文字が並んでいた。

「あ、寝てたな」と自覚しつつ、続きを書こうとして、私はさらに驚愕することになる。

ノートに記されていた内容が、黒板に書かれているものとまったく違っていたのだ。

確かに授業では、戦国時代の話——徳川家康や豊臣秀吉についてだったと思う。

しかし、私のノートには、教科書にも黒板にも記されていない“もう一つの歴史”が綴られていた。

内容は断片的にしか覚えていない。

けれど、確かこういう文言があった。

「○○の策により失脚したとされる××であるが、実際は△△の裏工作によるものであり、これは公にはされていない。後世に伝えられた史実は風評によって歪められたものである」

「この事件により、名も知られぬままこの世を去った者、都を追われた者も多い」

「このわずかな差異が、現代の歴史認識に影響を与えているかは定かではないが、確かに“別の歴史”が存在していた可能性は否定できない」

このようなニュアンスの文章だったと思う。

しかも、字の筆跡は間違いなく自分のものだった。

だが、夢で見た記憶はないし、無意識に書いた覚えもない。

当然ながら、寝ている間に勝手に文字を書くなどという芸当ができるわけもない。

私はその内容に得体の知れない怖さを感じて、慌てて消してしまった。

けれど今思えば、せめて書き写してでも残しておけばよかったと思う。

誰に見せても、笑い話くらいにはなったかもしれないし、歴史に詳しい誰かが何かを見出してくれたかもしれない。

補足しておくと、もう十年も前の話なので記憶はかなり曖昧だ。

それでも、戦国時代の話だったことは間違いないと断言できる。

内容に出てきた人物名は曖昧だが、たしかに「実際はこうではなかった」「史実は歪められている」といった主張がなされていた。

まるで、私を通じて誰かが何かを伝えようとしていたかのように。

私は歴史にはあまり強くないし、当時も深く理解していたとは言いがたかった。

それでも、その“もうひとつの歴史”の記述には、ただならぬ説得力があった。

あれはいったい、誰が書かせたものだったのか——。

今でもたまに、あの時のノートの感触や、ひんやりとした教室の空気を思い出すことがある。

そして思う。

私が体験したのは、何かの啓示だったのか、それとも……もう一つの世界の記憶が、ほんの一瞬だけ交差した瞬間だったのかもしれないと。

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