ループする道

通学路(フリー背景素材)

20年近く前の話になります。当時、私は小学4年生でした。

近所の公園にとても変わったすり鉢状の滑り台があり、小学生には大人気でした。

学校が終わってすぐに行かないと、取り合いや順番待ち、横暴な上級生のジャイアン的圧政など、面倒なことが増えます。

なのでその日も学校が終わったら、親友のT君とその公園で会う約束をし、走って帰りました。

家に帰るとランドセルを放り投げ、自転車に乗って猛烈に漕ぎました。

最初は何も考えていなかったのですが、何か変だと思い自転車を停めました。

すると、さっき渡ったはずの信号が遠くの方に見えました。

と言うより、自分が自転車を停めた所は、さっき通った所なんです。

どこから同じ道だったのかは分かりません。

ただ、その公園へは毎日のように行っていたので道を間違えるはずもなく、景色も覚えています。

それなのに『今からさっき通った所』という瞬間が分かりませんでした。

いつの間にか同じ道だったのです。

そして更におかしいのが、全く人気が無いのです。

何の変哲も無い住宅街ですが、いつもなら立ち話する主婦、道路で遊ぶ子供、大きな道に抜ける車など、何かしら人の動きがある道です。

それが全く無いのです。

家の中は見えませんが、家自体に人の気配が無いのは子供ながらに感じました。

騒音も全くありませんでした。

とにかく数百メートル先の信号まで行くことにしました。

しかし漕いでも漕いでも何故か近付けないのです。

はっきりとは見えませんが、信号が大分先に固定されていて、信号の少し手前の風景だけが流れている感覚。

どれだけ漕いでも着かないので遂に疲れ果て、漕ぐのを止めました。

そして段々心細くなり、泣き出したのです。

わんわん泣いていると先の角から、四十歳くらいのおっさんが歩いて来ました。

何やら携帯電話のようなもので話しながら歩いて来ました(当時は携帯電話は無かったので、トランシーバーだと思いました)。

そして泣いている私を見つけると、

「居た、居たわ」

と言いながら私に近付いて来て、

「よしよし、怖かったな、お家に帰ろうな」

と言って頭を撫でられた瞬間、後ろから車が。

いつの間にか騒音もいつも通り。

何だかよく解らない内に、何もかも元に戻っていました。

その後、公園へ行くとT君はまだ居ませんでした。

10分ほど経ってからT君が来ると、

「お前、早いなー。いつ着いた?」

と聞かれました。

「10分くらい前」

と言うと、

「嘘吐くな!俺、めっちゃ飛ばして来たんや。10分前ってまだ学校帰りやんけ」

と言われたのです。

そう、公園の時計を見ると、学校を出た時間から15分しか経っていないことになっていたんです。

学校から家、そして公園までの道は、最低でも20分は掛かるコース。

もう何が何やら訳が解らなくなってまた泣き出してしまい、T君は自分のせいで私が泣いたと思いオロオロ。

取り敢えず全てを説明し、二人で

「何やろなー」

と言っていました。

あの体験は一体何だったのでしょうか…。

関連記事

山道(フリー写真)

知らない道路標識

小学2年生の頃、仲の良かったタケシと一緒に、虫採りに学校の裏山へ行った。 その山は俺達の遊び場で、隅から隅まで知っている。まあ、山と言うより、中規模の雑木林のような感じだ。 …

ちょっとだけ異空間に行った話

ドラッグか病気による幻覚扱いにされそうだけど、多分、ちょっとだけ異空間に行った話。 就活で疲れ果てて横浜地下鉄で眠り込んでしまった。 降りるのは仲町台。夕方だったのに、車掌…

住宅街(フリー素材)

入れ替わった兄

小学校に上がる前だと思う。 ある朝、目を覚ますと隣で寝ている兄以外、家の中に人の気配が無かった。 家中を見て回るが、誰も居ない。 不安になって兄を起こそうと声を掛け、…

体育館

球状の異物

9年前、私が20歳で初めて選挙に行った日のことです。投票所は私の母校である小学校の体育館で、卒業式以来の訪問でした。体育館に入ると、記憶と違って狭く感じ、「こんなに狭かったかな?」と…

入れ替わった友人

怖くないけど、不思議な小ネタ。若しくは俺が病気なだけ。 俺は今仕事の都合で台湾に住んでる。宿代もかからず日本からも近いから、たまに友達が台湾に遊びに来る。そういう時の話。 …

タクシー

異世界タクシー

私の出身は宇都宮で、高校卒業後、3年制の専門学校へ行くために東京へ上京しました。夏休みのある日、赤羽駅近くの居酒屋で深夜まで飲んだ後、タクシーで家の近くの大きな公園まで帰ることにしま…

昭和のような町並みの異世界

田舎の高校に通っていた高1の夏休みの時の話をします。 部活が20時に終わり、その後23時くらいまで部室で怖い話をしていた。 さすがに遅くなったから帰るかという事になり、家が…

集合住宅(フリー素材)

知らない部屋

私が小学校に上がる前の話。 当時、私は同じ外観の小さな棟が幾つも立ち並ぶ集合団地に住んでいました。 ※ ある日、遊び疲れて家に帰ろうと「ただいまー」と言いながら自分の部屋の戸…

砂時計(フリー写真)

巻き戻る時間

10年程前、まだ小学生だった私は、家で一人留守番をしていました。 母親に注意もされず、のびのびとゲームを遊ぶことが出来てご満悦でした。 暫く楽しく遊んでいると、電話が掛かっ…

ローカル駅(フリー写真)

無音の電車

学生時代の当時、付き合っていた恋人と駅のホームで喋っていました。 明日から夏休みという時期だったので、19時を過ぎても空が明るかったのを覚えています。 田舎なので一時間に一…