すごく地味な

公開日: 笑える怪談

wallpaper349_640_1136

中学生の頃、家が近いのでいつも学校から一緒に帰る友達がいた。

ちなみに自分女、友達はユキといって、幼馴染の女の子。

中学から家までは、大体歩いて30分ぐらいの距離だった。
帰るには色んなコースがあって、今日はこっちから帰ろうとかあっちから帰ろうとか、バリエーションを楽しむのが日課だった。
私とユキは部活も一緒で、その日も部活終わりに2人で帰路についていた。

季節は秋で、まだ夕方と呼べる時刻だったはずだけど、辺りは暗くなり始めてた。
日が沈んだ直後の、空気が青い時間帯って言ったら分かるかな。
いわゆる逢魔が刻ってやつ。

その日は数あるコースの中から、墓地に沿った道を選んだ。
別に珍しいことではなく、よく通るコースの一つ。
左手が階段状に、斜面に沿ってずらっと墓石が並んでる。
右手は地元で有名な、某進学高校の長ーい石垣。

いつも通る道だし、木が綺麗にはえてて静かないい所なんだよ。
不気味だとか、互いに少しも思ってなかったと思う。
少なくとも自分はちっとも、墓地だとか意識してなかった。
道は墓地の前を百メートルぐらい通る。
アスファルトで舗装された綺麗な道路を二人で雑談しながらてくてく歩いてたら、十メートルぐらい向こうの道の真ん中に、黒くて小さい何かがいた。

辺りはもう薄暗いし、はっきりとは見えなかったけど、私は「お、猫がいるー」って言いながら近付いていった。
黒猫だと思ったんだよ。
地面に、ちょうどそれぐらいの大きさで、かすかに動いてて、ふわふわに見えたんだもん。

舌をちっちっと鳴らしながら呼んだのね。
「こっちこーい」とか言いながら、しゃがもうとして腰を曲げた。
そしたら、ユキが急に後ずさりし始めて「ねえ、それ、猫?」って言い出した。

「へ? 猫でしょ」
って言いながらすぐ近くまで寄って、覗き込むと、なんと猫じゃなかった。
なんか、毛の塊だったんよね。
説明が難しいんだけど、真ん中部分を中心に、すごい勢いで大量の長い毛が回転してた。
で、回転してる毛の流れそのものも、互いが激しくうねりながら絡み合って、とにかく凄まじい運動をしてる、毛の塊だったのよ。
それが、ほんのちょっと地面から浮いた状態で、ふらふら動いてたわけ。

私が呼んだからかどうなのか、塊はふらふらしながら私のほうに寄ってきた。
私は慌てて、その回転する毛の塊をジャンプして飛び越えた。
ユキは私より一足はやく走り出してて、私も「何あれ!何あれ!何あれ!?」って叫びながらユキを追いかけて走った。

しばらく行って振り返ると、毛の固まりは相変わらずふらふらしながら、道の向こうに遠ざかっていってた。
ものすごく動きが遅いからちょっと安心して「ねえ、もう一回見に行ってみようよ」とワクワクしながらユキに言うと「やめなよ…もう帰ろう」って、若干引かれながら言われたので諦めた。

結局、回転する毛の塊が何だったのかは分からないまま、10年が経つ。

私は書店員として働き始めていた。ある日、雑誌コーナーの整頓をしているとき、客が読みかけのまま開いて置きっぱなしにしていった雑誌をふと見て、思わず「うお!」と叫んでいた。
確かティーン雑誌だったと思うんだが、夏の妖怪特集だか何だかで、水木しげるがイラストつきで妖怪を紹介するコーナーが載っていて、そこにいたんだよ。
例のあの、回転する毛の塊がイラストで。

仕事中なのを忘れて、私は雑誌を取り上げて食い入るように見詰めた。
残念ながら、妖怪の名前は忘れてしまったが(本当に残念。知ってる人がいたら教えてください)、水木先生による短い解説文は今でもよく覚えてる。

『墓場に出る、死んだ女の髪が妖怪化したもの。地面に近い辺りをふわふわと飛んで移動する。墓場の掃除人などの足元からとりつき、とりついた者の気分を悪くさせたりする』
すごく…地味です…。
その日、帰ってからすぐユキに電話して教えたら、やっぱり、「地味だなー…」って言ってた。
ユキとは、今でも時々、会うとあの日見た妖怪の話になる。
あれから何度か、一人で夕暮れ時に、あの墓地沿いの道に行ってみたけど、一度も見れなかった。
妖怪っているんだな、でもきっと、心が汚れた大人には見れない仕様になってるんだろうな、と思ってますw

関連記事

絵皿

喋る絵皿

小さい頃、祖父が友人宅から鷹の絵の描かれた大きな絵皿を貰ってきた。 それは今でも和室に飾ってあって、特に怪奇現象を起こしたりはしていない。 祖父の友人は骨董商だった。 …

犬に呪われたら

お前ら犬に呪われたら本気でヤバイぞ。マジで注意しろ。 俺もいろいろ調べてはいるんだが、どうも要領を得ない。呪いに詳しいやつがいたら助言がほしい。 もともと家には俺が生まれる…

繋いだ手(フリー素材)

おばあちゃんが結んだ御縁

半年前に誕生日を迎えたんだけど、その夜に不思議な夢を見た。 昔のおじいちゃんの家で正座をしていて、辺りを見渡していたら、ふとおばあちゃんが入って来た。 おばあちゃん、四歳の…

自動ドアが認識しない人間

大学二年の夏休みに入る少し前からだったかな…。 コンビニやらスーパーやらの入り口、とにかく全ての自動ドアが俺に反応しなくなった事があった。 それまでは普通に入ることの出来て…

夜道

散々な彼女

高校時代の彼女H美の話。 H美の家は、少し長めの道路の中間ぐらいに位置していた。夜になると人影も車もまばらになる薄暗い道路だ。 ある時期から、大して人通りもないその道路で事…

黒い塊

これは、二十歳になったばかりの男子学生の経験した話である。 その学生が住んでるアパートは、築35年くらいの木造で、駅からも結構距離がある。 トイレは共同だし風呂もついてない…

リン!リリン!

どこに書けばいいのか分からないけど、私的にオカルトかつ不可解だったのでここに。 大学に入ったお兄ちゃんが部屋の中で「リン!リリン!」と叫んでいることがあったんですよ。壁越しに丸聞…

日本酒(フリー写真)

クジ引き

この前、近所の商店街のイベントでクジを引いた。 買い物をすると貰えるクジ引き券を数枚集めて引くあれだ。 『三等のスポーツ自転車が欲しいな~』なんて考えながら箱に手を入れて…

タヌキの足跡

神棚のタヌキと姉の運

俺の姉は、昔から“運が良い”と評される人間だ。 宝くじを買えば、ほぼ毎回のように当たりが出る。とは言っても、夢のような3億円といった大当たりではない。大抵は3,000円。あまり…

カーテン(フリー写真)

少年とテレビ

これは僕の姉が、今の旦那と同棲中に体験した話です。 姉は何年か前に、京都の市内にあるマンションに旦那さんと住んでいました。 当時旦那さんは朝早い仕事をしており、毎朝5時には…