谷の置き傘

雨の日の傘(フリー写真)

小学生くらいの時の話。

親戚の家が辺鄙な場所にあった。裏手には山、逆側には谷がある。

子供の遊び場としては最高だったのだけど…。

そして谷にはよくゴミが捨てられる。山の中を走る国道沿いにあるせいだろう。

遊びに行った時も、偶にゴミ拾いをさせられた。

結構深い谷に落ちているゴミを掃除するのは大変だった。

しかしゴミの中で唯一、

「拾わなくて良い」

と言われていた物があった。

それは傘だった。

「どうして傘を拾わないの?」

と聞くと、みんな決まって

「あれはゴミじゃないから」

と答える。

『ゴミじゃない? どう見たって汚い傘じゃないか』

と思い、親戚の叔父さんに詳しく聞いてみた。

叔父さん曰く、

「あれは谷の置き傘だ」

と言う。

誰が始めたのかは判らないが、谷に傘を置いておく風習があるらしい。

「どうして?」

と聞くと、

「谷の住人が使うんだよ。言ってみれば、この世とあの世の間に居る者だな。谷にはそいつらが住んでいる。

それで、雨が嫌いだから傘が無いと濡れて怒っちゃうんだと。そしたら良くないことが起こる。だから傘を置いているんだ」

「良くないことって?」

「よくは判らん。でも、鵺が鳴く夜は人が死ぬと言うだろう? そんな感じの言い伝えだよ。谷が濡れる日は災いが起こる」

谷ではよく遊んだけど、谷の住人に会うことは無かった。

でも、ポツンと傘がある光景は異様だったことを憶えている。

結局、その谷も開発のために埋め立てられ、現在は運動公園になっている。

谷の住人たちはどこへ行ったのか。

もしかしたら埋め立てられた場所にまだ留まっていて、もう雨に濡れることは無いと喜んでいるのかもしれない。


note 開設のお知らせ

いつも当ブログをご愛読いただき、誠にありがとうございます。
今後もこちらでの更新は続けてまいりますが、note では、より頻度高く記事を投稿しております。

同じテーマの別エピソードも掲載しておりますので、併せてご覧いただけますと幸いです。

怖い話・異世界に行った話・都市伝説まとめ - ミステリー | note

最新情報は ミステリー公式 X アカウント にて随時発信しております。ぜひフォローいただけますと幸いです。

関連記事

山道(フリー写真)

かなめさま

長くなるがどうか聞いて欲しい。 俺が昔住んでいた場所はド田舎で、町という名前は付いていたものの、山間の村落みたいな所だった。 家の裏手の方に山道があり、そこに「かなめさま」…

すたか駅

消えた駅『すたか』と提灯の山

それは、ある晩のことだった。 京都駅からJR線に乗り、長岡京へ向かっていた私は、仕事疲れもあってか、ついウトウトと居眠りしてしまった。 気づいたときには、電車はすでに見知…

山

ヤマノタミ

俺の父方の祖先は九州の山奥の領主だった。 これは父が自分の祖父から聞いた話(つまり俺にとっての曽祖父。以下曽祖父)。 ※ 曽祖父の両親は田舎の名家ということもあって、かなり厳…

山道(フリー写真)

やまけらし様

俺の家は物凄い田舎で、学校へ行くにも往復12キロの道程を自転車で通わなければならない。 バスも出ているけど、そんなに裕福な家でもないので、定期を買うお金が勿体無かった。 学…

裏山

危険な好奇心(中編)

山を降り、俺達は駅前の交番へ急いだ。 『このカメラに納められた写真を見せれば、五寸釘の女は捕まる。俺達は助かる』 その一心だけで走った。 途中でカメラ屋に寄り現像を依…

不思議なお姉さん

小学2年生のころの話。小さいときに母ちゃんが死んで、親父に育てられてた。 父子家庭が原因か内向的な性格で、小学校でもひどいいじめにあってた。 1年生のころからずっといじめ続…

高校の頃の同級生、Aちゃんにまつわるほんのり話。 自分で言うのもなんだが、母校は地元でも有名な進学校。 女性担任が成績の良い生徒には優しく、悪い生徒には冷たい典型的な学歴コ…

自転車置き場(フリー写真)

幽霊を持って帰る

私の叔母が、大型ショッピングモールで清掃のパートをしていた時の話。 オープン当時から一年ほど経ってはいたものの、建物も設備もまだまだ綺麗で、田舎の割に繁盛していた。 しかし…

みょうけん様

うちの地元に「○っちゃテレビ」というケーブルテレビの放送局があるんだが、たまに「地元警察署からのお知らせ」というのを流すんだ。 どこそこのお婆さんが山に山菜を採りに行って行方不明…

夜の山道

ヤマメ

あれは母の実家から帰る途中での出来事。 母の実家はG県の田舎で、夏はキャンプ、冬はスキーをする人が来るような山の中。 お盆の時期になり、母が祖父の家に帰るらしいので、3人で…