呼び寄せられた仲間

あれは、私がまだ学生だった頃、北陸のある街での出来事だ。

季節は冬で、その晩は朝から、鉛色の空がずっと雪を降らせていた。

私は同じ高校だった友人と二人、用事のついでに、繁華街をぶらついていた。

アーケードの軒先で雪をよけながら、温かい飲み物でも、と店を探していた。

その途中で、ばったりと、別の旧友に出くわした。

高校を出て以来、一度も会っていなかった、同じクラスの男だった。

思えば、その日は朝から、どこか妙な一日だった。

出かける前、家の電話が一度鳴って、出ると誰も応えず、すぐに切れた。

気のせいだと思って、私は雪の中、街へ出た。

今になって思えば、あれが始まりだったのかもしれない。

「おう、久しぶりじゃないか」と、どちらからともなく声が出た。

私たちは高校時代、写真部で一緒だった六人組だった。

写真部といっても、真面目に活動していたわけではない。

放課後の暗室にこもって、現像液の匂いの中で、くだらない話をするのが好きなだけの集まりだった。

赤い安全灯の下で、印画紙に像が浮かび上がる瞬間を、皆で息を詰めて見守った。

Kは、その中でもいちばん腕が良くて、人の表情を撮るのが上手かった。

誰も気づかないような、ふとした横顔を、Kはそっとシャッターに収めた。

卒業のとき、Kは一人ひとりに、その人が写った写真を一枚ずつ手渡してくれた。

私の手元にも、あのとき貰った一枚が、今も残っている。

卒業してからは、誰もが散り散りになり、連絡も自然と途絶えていた。

そんな相手と、雪の繁華街で偶然会うとは、思ってもみなかった。

懐かしさのあまり、私たちは近くの喫茶店に入り、しばらく話し込んだ。

街で出くわした旧友は、Sといった。

卒業後は遠くの町で働いていて、その日はたまたま、所用で帰省していたのだという。

「こんな雪の日に、お前らに会うとはな」と、Sは目を丸くしていた。

偶然にしては出来すぎだと、その時から、私はどこか落ち着かなかった。

湯気の立つコーヒーを前に、昔話はいつまでも尽きなかった。

窓の外では、相変わらず、雪が静かに降り続けていた。

話の流れで、その旧友の下宿が近くにあると分かった。

せっかくだから、と、私たちは三人で、彼の部屋へ向かうことになった。

古いアパートの一室は、写真の現像液の匂いが、かすかに残っていた。

壁には、高校の頃に撮った白黒写真が、何枚も画鋲で留めてあった。

六人で写った、文化祭の集合写真もあった。

それを見ながら、私たちは、また昔の話に花を咲かせた。

日が暮れて、外はますます雪が深くなっていった。

そろそろ帰ろうかと思っていた頃、不意に、部屋の戸が叩かれた。

入ってきたのは、写真部の、もう一人の仲間だった。

彼はこの下宿に、ちょくちょく顔を出していたらしい。

「なんだ、勢ぞろいじゃないか」と、彼は雪を払いながら笑った。

これで、六人のうち四人が、この狭い部屋に集まったことになる。

後から戸を叩いて入ってきたのは、Mだった。

Mは昔から、誰よりも勘の鋭い男で、その晩もどこか様子がおかしかった。

「なんとなく、ここに来なきゃいけない気がしてな」と、Mは妙なことを言った。

用があったわけでもないのに、足が勝手に向いたのだと。

私たちは笑ったが、内心では、誰もが少しずつ、落ち着かなくなっていた。

誰からともなく、不思議だな、という言葉が漏れた。

卒業以来、誰とも連絡を取っていなかったのに。

それが、たった一日のうちに、次々と顔を合わせている。

「あとは、KとTが来れば、あの六人が揃うのにな」

誰かが冗談めかして、そう言った。

その時はまだ、ただの偶然だと、皆が笑っていた。

けれど、私の胸の奥には、小さな違和感が居座っていた。

これだけの偶然が、こんなにも都合よく重なるものだろうか。

窓の外の雪は、いつのまにか、音を吸い込むように降り積もっていた。

部屋の中の四人の声だけが、やけにはっきりと響いていた。

話題はやがて、自然と、その場にいない二人のことに移っていった。

「そういえば、Kの奴、最近どうしてるんだ」と、誰かが言った。

それきり、Kの話になると、皆の口が、なぜか重くなった。

誰かが、Kの実家に電話をかけてみようか、と言い出した。

古い黒電話の受話器を取り、番号を回したが、その夜は一度も、相手が出なかった。

呼び出し音だけが、虚しく鳴り続けていたのを、今でも覚えている。

時計の針は、もう深夜を回ろうとしていた。

それでも、誰も帰ろうとは言い出さなかった。

雪のせいか、外へ一人で出ていくのが、なぜか躊躇われたのだ。

話が途切れ、ふと静かになった、そのときだった。

アパートの外の通りで、車が一台、急に停まる音がした。

続いて、慌ただしい足音が、階段を駆け上がってくる。

戸が、乱暴に開けられた。

立っていたのは、写真部のもう一人、Tだった。

彼の顔は、雪のせいではなく、紙のように白かった。

Tもまた、卒業以来、私たちとは会っていなかったはずだ。

それなのに、彼は私たちの顔を見ても、再会を喜ぶどころではなかった。

肩で息をしながら、震える声で、彼はこう言った。

「Kが……Kが、昨日、自分で死んだそうだ」

Kの家から、たった今、連絡があったのだという。

部屋の空気が、すうっと、冷たくなった。

Kは、私たち六人の中でも、いちばん穏やかな男だった。

誰の話にも静かに頷いて、いつも一歩引いて笑っているような奴だった。

その彼が、自ら命を絶ったという。

昨日のことだと、Tは繰り返した。

つまり、私たちがこうして次々に集まり始めた、まさにその頃に。

誰も、しばらく、口をきけなかった。

落ち着いてから、私たちは、その日の足取りを、一つひとつ確かめ合った。

誰が、いつ、どんなきっかけで、ここへ来ることになったのか。

するとどの道筋も、ほんの少しの偶然が、いくつも重ならなければ、起こり得ないものだった。

電車が一本遅れていたら。あの角を曲がっていなかったら。

そのどれか一つでも欠けていれば、私たちは、こうして集まってはいなかった。

まるで、見えない誰かが、一人ずつ丁寧に、糸を手繰り寄せたかのようだった。

Mが言った、来なきゃいけない気がした、という言葉が、急に重く響いた。

あらためて、その日のことを思い返してみる。

卒業以来、一度も会わなかった六人。

それが、この一日のうちに、五人までが、次々と引き合わされた。

示し合わせたわけでも、誰かが呼んだわけでもないのに。

まるで、見えない手に、たぐり寄せられるように。

残る一人、Kだけが、この場にいなかった。

いや、本当に、いなかったのだろうか。

私には、どうしても、そうは思えなかった。

あの穏やかなKが、最後にもう一度、皆に会いたかったのではないか。

だから、自分以外の五人を、こうして一つ所に集めたのではないか。

亡くなった友が、メンバーを集めてくれたとしか、私には思えなかった。

声には出さなかったが、その場の全員が、同じことを感じていたと思う。

誰かが、壁の集合写真に、そっと目をやった。

六人で笑っている、あの一枚に。

Kの隣には、ちょうど一人分の、隙間があるように見えた。

その夜、私たちは結局、朝まで、その部屋を動かなかった。

誰も、降りしきる雪の中へ、一人で出ていく気にはなれなかったのだ。

明け方になって、ようやく雪はやみ、窓の外がうっすらと白んできた。

私たちは、何も言わず、Tの車で、Kの実家へ向かうことにした。

車内では、誰も一言も、口をきかなかった。

ワイパーが、フロントガラスの薄い雪を、ただ規則正しく払っていた。

Kの家の前には、すでに、何台かの車が停まっていた。

玄関には、白と黒の幕が、張られようとしているところだった。

Kの母親が、私たちの顔を見て、ああ、と小さく声を漏らした。

「あの子、最後に、あなたたちのことを、よく話していたのよ」

枕元には、卒業のときに撮った、あの六人の集合写真が置かれていたという。

私は、言葉を失って、ただその場に、立ち尽くすしかなかった。

葬儀のあと、私は自分の部屋で、机の引き出しを開けた。

卒業のときにKがくれた、一枚の写真を、久しぶりに取り出した。

それは、私自身が写った写真だった。

暗室の赤い灯りの下で、何かを覗き込んでいる、若い私の横顔。

自分では気づかなかった表情を、Kはちゃんと見ていてくれたのだ。

その写真の裏に、Kの小さな字で、ありがとう、と書いてあるのに、私は初めて気づいた。

あの穏やかな男は、最後まで、仲間のことを見ていたのだと思う。

Kの母親は、私たちに、温かいお茶を出してくれた。

「あの子、友達に恵まれて、幸せだったと思うのよ」と、母親は静かに言った。

誰も、何も言えなかった。

昨夜、あの下宿で感じた偶然の連なりを、誰も口にできなかった。

ただ、Kが最後に、私たちを呼んだのだと、心のどこかで、皆が信じていた。

茶碗から立ちのぼる湯気を、私はぼんやりと見つめていた。

不思議と、恐ろしいとは思わなかった。

背筋に冷たいものは走ったが、それ以上に、胸の奥が、じんと温かくなった。

死んだ者が、生きている仲間を呼び寄せるなどということが、本当にあるのだろうか。

理屈では、説明がつかない。

それでも、あの夜の出来事だけは、私の中で、確かな手触りを持って残っている。

きっと、Kも、あの晩、すぐ近くにいたのだと思う。

私たちの輪の、ほんの少し外側で、静かに笑っていたのだと。

最後にもう一度だけ、仲間の声を、聞きたくて。

あの偶然の連なりは、彼からの、声にならない呼び声だったのだ。

私たちは、その後も、年に一度は集まるようになった。

Kの命日には、必ず誰かが、あの集合写真を持ってくる。

一人分空いた、Kの隣の席には、いつも一杯のお茶を置く。

集まるたびに、あの雪の夜のことを、誰かがぽつりと話し出す。

そして決まって、最後はこう言うのだ。

——あれは、Kが呼んでくれたんだよな、と。

あれから長い歳月が過ぎ、私たちもそれぞれ、別の人生を歩いている。

それでも今でも、雪の降る夜になると、私はあの狭い部屋を、ふと思い出す。

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