形見分け

公開日: ほんのり怖い話

モデルカー(フリー写真)

俺はとある物のコレクターなのだが、コレクター友達であるAがある時突然、余命宣告を受けるような大病に罹ってしまった。

もう手の施しようがないレベルで、元気に動いているのが不思議な状態だったとか。

それからのAの動きは早かった。

部屋に保管している大量のコレクションを黙々と開封し、ひとしきり眺めたり触ったりした後分別し、丁寧に袋に詰めて梱包し、市の処分場へ。

そしてそのままゴミとして処分した。

俺を含む気心の知れたコレクター仲間5人は、それを黙々と手伝った。

捨てる物だからと雑に袋に詰め込むこともなく、綺麗に梱包して袋に入れ、だからと言って受け取り拒否がされることのないよう、梱包材の材質や梱包方法についてもきっちりと気を遣う。

友人のコレクションへの思いが伝わって来た。

そして、売ることもなく(物凄く価値のある物も普通に捨てた)、リサイクル業者に引き取ってもらうこともなく(そうした物が後日オークションに流れる可能性を警戒していたそうだ)、全て自らの手で『捨てた』。

Aのコレクションへの執着が伝わって来た。

俺らコレクター仲間が、

「形見分けな。処分する時は絶対に捨てて欲しい」

と一つずつ譲り受けた物以外、全てがこの世から消えた。

Aは現存数が非常に少ない物も普通に持っていたので、下手すると最後の一個がこの世から消えた物もあったかもしれない。

Aはその後、たった一ヶ月で亡くなった。20代だったため進行が早かったらしい。

そしてその後、すぐにコレクター仲間Bが大怪我をした。

まあ、それは運が悪かったのだろうと皆そこまで気にしなかった。

更にその後、コレクター仲間Cが結婚をすることになった。

その時、

「コレクターから卒業するから」

と、コレクションをに出した。

Aから譲り受けた物もオークションに出品し、そのアイテムは滅茶苦茶高騰した。

するとCはオークション後、少し経って大怪我をした。

仲間内でもその話になり、

「Aが怒ってるんじゃねえの」

と俺が言うと、暫く前に大怪我をしていたBが頷いた。

「きっとそうだ」

話を聞くと、大怪我をする直前に、BはAから譲り受けた物が某マニア系ショップの超目玉買い取り商品になっていたので、つい売ってしまっていたのだと言う。

皆もう、

「うん……きっとそれはAが怒ったんだな……」

と言うことしかできなかった。

ちなみにその時話していたコレクター仲間D(子持ち)はその後、子供が部屋に侵入した際にAから貰った物を壊してしまったせいで、その後暫く怯えていたが、一年近く経つ今でも特に何事も起こっていない。

恐らく『Aから譲って貰った物を売る』のがAの怒りのトリガーになるのでは、と俺は思っている。

或いは、Aは子供好きだったし、俺らのコレクションは子供に遊んでもらってナンボな面もあるから、子供が何かしても不問なのかもしれない。

今のところAから譲り受けた物を手放す予定は無いので検証する方法も無いが、もしもコレクションを手放すことになっても、Aから貰った物は売らないでおこうと思っている。

関連記事

大きな木(フリー写真)

初恋のお兄さん

小学3年生の頃、当時9歳だった私は、学校で虐めに遭っていました。 幼なじみの友達はいたのですが、一人で過ごす方が楽に感じてきていました。 ※ そんなある夏の日のこと…

お婆ちゃんの手(フリー素材)

牛の貯金箱

小学生の頃、両親が共働きで鍵っ子だった俺は、学校から帰ると近所のおばあちゃんの家に入り浸っていた。 血縁者ではないが、一人暮らしのばあちゃんは俺にとても良くしてくれたのを覚えてい…

夜の海(フリー写真)

夜の闇と黒い海面

かなり昔のことになります。 当時、小学低学年だった弟は、父に連れられて夜釣りに行きました。 切り立つような崖の先端近くに父と並んで座り、暗い海面に釣り糸を垂れていた弟は、…

古民家(フリー写真)

トシ子ちゃん

春というのは、若い人達にとっては希望に満ちた、新しい生命の息吹を感じる季節だろう。 しかし私くらいの年になると、何かざわざわと落ち着かない、それでいて妙に静かな眠りを誘う季節であ…

沼(フリー写真)

そこなし沼にて

親父は教師をしており、俺は小学二年生まで教員住宅に住んでいた。 俺の家の裏は林になっていて、そこに『そこなし沼』と呼ばれる沼があった。 その周りではクワガタが沢山捕れるの…

夜のアパート(フリー素材)

古戦場の近くにある寮

今から八年前の五月に体験した話。 当時は大学の寮に住んでいたのだけど、その寮は凄かった。 古戦場の近くで、その霊を供養するお寺が近所にあり、更に寮の隣の竹林には首塚があっ…

駅のホーム

もうひとりの私がいた日

この出来事は、私がまだ小学校に入学する前のことです。 その日、母に連れられて、遠縁の親戚の家を訪ねるために駅へと向かっていました。私にとっては、電車に乗るのも駅に行くのも、すべ…

キジムナー

あまり怖くないが不思議な話をひとつ。 30年くらい前、小学校に行くかいかないかの頃。 父の実家が鹿児島最南端の某島で、爺さんが死んだというので葬式に。 飛行機で沖縄経…

海(フリー写真)

漁師に伝わるまじない

にわかに信じられない話だが、うちのお袋がお袋の祖父に聞いた話。 母方のばあちゃんの実家は、漁師の網元だったらしい。 お袋の祖父(以降祖父)が、よくお袋にしていた話だ。 …

小綺麗な老紳士

駅構内の喫煙スペースで私はタバコを吸っていました。 喫煙スペースと言っても田舎の駅なので、ホームの端っこにぽつんと灰皿が設置してあるだけの簡易的なものでした。 すると小綺麗…