寺生まれのTさん
俺は久々に嫌な夢を見た。
ノコギリを持った男が俺の部屋に立っている。
俺は恐怖のあまり動くことが出来ず、ただその男を眺めている。
すると男は突然、ノコギリで家の柱を切り出した。
思わず「やめろ!」と叫ぶ俺。
するとゆっくりこちらを振り返る男。
その顔は、見るも無残に潰されて顔中に釘が打ち付けてある。
「お前もこうなりたいのか? お前もこうなりたいのか?
してやろうか? してやろうか?」
ゆっくり俺に近付く男。
俺は金縛りに遭ったかのように動けず、そして男のノコギリが俺の顔に…。
※
そこで目が覚めた。
嫌な夢だ。後味が悪い。
俺は水を飲もうと立ち上がった。
俺の目に飛び込んで来たのは、無残にも傷つけられた家の柱だった。
俺は恐怖で腰を抜かしてしまった。
あの男は現実に居る。
そして次は本当に俺の顔が刻まれてしまうのではないかと怯えた。
※
その日のバイトで、俺は寺生まれで霊感の強いTさんにその夢を相談してみた。
しかしTさんは「所詮、夢だろ?」と冷たい対応。
これでは引き下がれないので必死に「何とかしてください!」と頼み込むと、
「それじゃあ、俺の作った御守りをやるからそれを枕元に置いて寝ろ、そうすりゃ大丈夫だ」
と、御守りを渡してくれた。
※
次の日、不安ながらも朝の早かった俺は床に就いた。
そこでまた夢を見た。
「つづき、つづき、つづき!つづき!つづき!つづき!」
またあの男だ!
俺は夢の中でTさんの御守りを探した。
しかしどこにも見当たらない。
「これ? これ? これ?」
何と御守りを男が持っている。もうおしまいだ。
だが次の瞬間、御守りが眩い光に包まれ、どこからともなくTさんの声が。
「破ぁ!!」
御守りは光と共に飛び散り、男の半身を吹き飛ばした。
「あああああああああ」
半身でのたうつ男を尻目に、俺は夢から目覚めた。
枕元にあったはずの御守りは、どこを探しても見つからなかった。
※
その話をTさんに話すと、
「半身を吹き飛ばした? やれやれ、威力は親父の作った奴の半分か…」
と呟くTさん。
寺生まれは凄い。
俺は感動を覚えずには居られなかった。