昭和さん

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私の地元は田舎で、山の中にある新興住宅街だった。新興と言っても、結局発展し切れなかったような土地だった。

私は山に秘密基地を作り、友達とよく遊びに行ったものだった。

ある日、私は友人のN子と一緒にミョウガを取りに山に入っていた。しばらくすると、遠くからN子が何か興奮した様子で私の元にやってきた。

N「あっちに鳥居があった!」

私「そんなの見たことないよ」

N「ほら、こっち来て!行ってみよう」

N子は私を引っ張り鳥居があると思われる場所まで歩いた。

そこには灰色の小さな鳥居が立っており、お世辞にも綺麗とは言えない神社(祠のようにも見える)があった。

近くまで寄ってみるとなんとも不吉な感じのする場所だった。N子は私の手を引っ張り、一緒に鳥居を潜った。

ところが、鳥居を潜った瞬間、足が動かなくなってしまった。もの凄く寒く、空気が凍っているようだった。

頭はパニックになり、騒ごうにも逃げようにも体が動かない。声も出ないのでN子に声も掛けられなかった。

ふと、視界の中に石碑が見えた。名前が書いてあるようで昭和○子と書いてあった(○は読めなかった)。

次の瞬間、N子が私の手を振り解き「くぁwせdrftgyふじこ」みたいな意味不明な言葉を発しながら神社から逃げてしまった。

私も体が動くようになり、N子の後を追うように逃げた。

家に着き、よく分からない恐怖で胸がいっぱいだったが夕飯を食べ、アニメを見た頃にはすっかり忘れてしまっていた。

山での恐怖など忘れ、ぐっすり眠っていた私は夜中に目が覚めた。多分2時〜3時くらいだろう。部屋の中に誰かがいる気がした。

最初は兄貴が驚かせようと私の部屋に入ってきたと思っていた。逆に驚かせてやろうと思った私は体を起こそうとした。

起きない。動かない。動くのは目だけだった。

神社に入った時と全く同じ症状だった。

急に怖くなった私は目を強く閉じ『神様!仏様!』と心の中で叫んでいた。気配は初め私とは遠い場所にあったが、段々と近づいているのが分かった。

霊感など皆無だった私は本当に怖くて心臓が口から出そうな思いだった。

足元の近くまで気配が来たところでフッと気配が消えた助かった。と思った右頬に生暖かい気配がした。

目を閉じて、自分の右手を頬に近付けてみて欲しい。何かが近くにあると分かるはずです。

その状態。

更に耳に「ンーーーー」と声だか息だか分からない物が吹きかかった。本当にやばいと思った。うっすら目を開けてみると視界の右端に真っ黒なものがあった。

動いてる。

再び目を強く閉じ、助けて!と心の中で叫んだ。耳元の息が一瞬止まった。

「オマエジャナイ」

耳元で囁かれ、気配が完全に消えた。

全身びっしょりと汗をかいて、気付いたら朝になっていた。

翌日N子は学校を休んだ。

心配になった私は昨日のこともあるのでN子の家を訪ねた。

N子の家はシングルマザーで家にはN子一人だった。

私「大丈夫?風邪?」

N「昨日、何かあった?」

私「風邪か聞いてるんだけど」

N「…風邪じゃない」

私「そっか。あのね昨日変な体験したよ。オマエジャナイって言われた」

N子はいきなり取り乱した。

N「やっぱり!私を探しているんだ!このままだと私殺される!助けて!!」

私「意味分からないよ。どうしたの?」

N「あの時、神社の影に女の人がいたの、その人笑いながら私を指差していた」

私「見間違いじゃないの?」

N「違うよ!じゃなきゃ怖くて逃げたりなんてしない」

あまりにも震えるN子を見て、とりあえず知っている限りの知識のことをしようという話になった

家の前に盛り塩、部屋の中にも盛り塩、真っ白な服を着せて夜7時までは一緒にいてあげた

母親は8時には帰るということだったので、1時間くらいなら問題ないと思った。

N子の家を出る時ふと玄関の盛り塩を見ると先の方が黒くなっていた。

今思えば予兆だったと思う。当時の私はふと疑問に思うだけで、自分の家に帰ってしまった。

夜9時、N子の母から電話が掛かってきた

N母「私ちゃん? N子知らないかしら」

私「家にいませんでしたか?」

N母「どこにもいないの。心当たり無いかしら?」

私「…分かりません」

実際分からなかった。あの状態で外出なんかするはずも無いし何がなんだか良く分からなかった。

ただ、心当たりが一つだけあった。

神社だ。

もしかしたらあの神社にN子が行っているかもしれないと直感が言っていた。

自分の両親にその話をした。そして私は父に思いっきり引っ叩かれた。

父「あそこに入ったのか!?どこまで入った!何か見たか!?」

私は何も見ていないこと、だがN子は見たこと、鳥居に入って足が動かなくなったこと、先にN子が逃げてしまった事等。泣きじゃくりながらすべて父に話た。

父は誰かに電話し、N母を呼び今から神社に行くと言った。

話を聞いたN母は泣き崩れたが、気を持ち直し父が呼んだ近所のおじさんと一緒に家を出た。

神社に行く途中、あの神社について話を聞けた。

神社と思っていたものは神社では無く墓だという事。

昔の裕福な家柄の一人娘の墓である事。

娘は誘拐され・暴行され・妊娠して殺されたという事。両親は娘の為に墓を作ったが、娘の魂はまだ現世にあるという事。そして決して近寄ってはいけない事。女を見てしまったら諦める事。

そんな話をしているうちに神社の近くに着いた。全員が酒と塩を浴び、神社の正面に立った。

懐中電灯を神社に向けると建物の前にN子がいた。顔を隠して俯いている。N母がN子に駆け寄り顔を引っ叩いていた。

N母は無理矢理N子を神社から引きずりおろし、私たちの元へと連れて来た。N子はぶつぶつと何か呟いていた。私が近寄ることは許されなかったがN子が何を言っているかは理解できた

「次は私が鬼」

ずっとそう呟いていた。

ものすごい笑顔だったのを覚えている。

友達だが、本当に気味が悪かった。

その後N子は転校して行きました。あれから14年。N子の行方は今も分かりません。

ここからは私の妄想です。

N子は女を見てしまった。その女は多分昭和○子。誘拐された昭和さんは犯されているうちに精神が錯乱し誘拐された事を隠れんぼだと思い始めたのではないでしょうか。

殺された昭和さんは成仏せず魂だけこの世に残りあの神社にいた。そこへ私とN子が行きN子が偶然女を見てしまった。

ここから先は言わなくても想像して頂けますよね。

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