もう一人の足
公開日: 怖い話
母が高校生くらいの頃、母にはAさんという友人がいたそうです。
その人は別に心霊現象に遭うような方ではなく、本当に普通の人だったそうです。
ある日、母とAさんは近くの銭湯へと行きました。
長風呂派の母はゆっくりと入っていたそうですが、Aさんは比較的早く上がってしまう人らしく、熱いということで先に脱衣所へと行ってしまったそうです。
それから暫くして、衣類を身に着けたままのAさんが慌てて母の元へと駆け寄って来ました。
何事かと聞いてみると、Aさんはとても動揺しながら
「足が!足が!」
と言っていたそうです。
取り敢えずAさんを落ち着かせる為に、急いで浴場を後にして脱衣所へと向かいました。
番台には番頭さんが居り、脱衣所には誰も居ません。
Aさんは一人震えながら母の背中に隠れていたそうです。
Aさんが落ち着いた後、詳しく聞いてみました。
※
Aさん曰く、脱衣所へとやって来て、衣類を身に纏い、髪を乾かしていた時、たまたまヘアピンを落としてしゃがんだそうなのです。
屈むような感じではなく、上半身を下げるような体制でヘアピンを拾った時、自分の足の向こうに、もう一人の足があったそうです。
まるで、自分の後ろにピタリとくっつくように。
誰か待っているのかと身体を上げたそうですが、鏡にはAさんの姿だけ。
そこから急に怖くなったAさんは、衣類を身に纏ったまま浴場に居る母の元へと駆けた、とのことでした。
その時は単なる見間違いだろうと母も笑っていたそうですが、その日以来、Aさんは足を見ることが多くなったそうなのです。
初めて見た時のように屈もうがそうでなかろうが、いつも自分の側にピタリとくっついているそうなのです。
それからというもの、Aさんは元気を失くしてしまい、ある日お亡くなりになられました。
原因は酔っ払いが運転する車に追突されたとのことですが、母はきっと『足』が何かしら関わっているのではないかと思ったそうです。
※
後日、Aさんの通夜に参加した母ですが、帰って来るなり疲れた顔をして、私にこの話をしてくれました。
そして、一服を終えるなり一言呟きました。
「Aね、事故で命を落としたのもそうだけど、両足も失くしちゃったのよ」
もしかしたら、あの足はAさんのものだったのでしょうか?
それとも、Aさんの足を狙った何かだったのでしょうか?