曰く付きの絵画

公開日: 怖い話

倉庫(フリー背景素材)

一つ俺の体験談をば。

秋口の頃だったか、俺の勤めている会社の社長の菩提寺が建物の一部を修復するとかで、俺も含めて若い社員が5、6人と、監督役の係長が一人、荷物の運搬を手伝いに行かされたことがあった。

……本来は休日である土曜日に、だ(笑)。

ご本尊の裏にある位牌やら何やらを、丁寧に梱包して箱詰めしていたまでは良かったのだが、何か妙に気になる物があるのね。

あからさまに額縁入りの絵画なのだけど、布が被せてあるのよ。それも複数枚。

黙ってスルーしていれば良かったのだろうけど、やはり気になる。

それでもって住職の息子さんに聞いてみたのよ。

「これ、絵ですか? 何でこんな風にしてあるんです?」

そしたら息子さん、カラカラと笑いながら、

「ああ、それは皆『曰く付き』の絵です。だからうちで預かってるんですよ」

と事も無げに言う。

「……あー……ははは、そうですかー」

聞かなきゃ良かったなあ、とプチ後悔しながら作業に戻り、やがて夕暮れになった。

会社の大型ワゴン車二台分くらいのダンボール荷物を乗せたまま山道(田舎の高所にある寺だった)を下って、その途中道の駅で食事をすることになった。

食事しながら係長に、

「そういやあの荷物どこに下ろすんですか?」

と聞くと、

「会社の倉庫」

だと言う。

……えー。何か怖いじゃん。やだなあ、位牌まみれの倉庫で在庫調べるのは。

まあ、そんなこと言っても仕方が無いので、会社に戻ってから倉庫の一角に荷物を下ろし、それじゃあお疲れ様、という運びになったんだけどね。

本当に嫌だったのはその翌々日。つまり月曜の夕方。

うちで注文した資材が入荷したので、倉庫に運んだんだけどさ。

……例の位牌が入ったダンボール箱の一つの蓋が開いている。

そればかりか、何か見覚えのある布の被った絵が、そのダンボールに立てかけてある。

うわ、マジで洒落にならん、と思ったけど『気になる』なんて生易しいものじゃないから、一応確認してみようと思った。

布をそーっと捲って見てみると、女の人の肖像画だった。

肩口から上がモナリザのような構図で描いてある絵。

……ただ、まあ、流石だね。寺で預かるだけのことはあるね。

殺意のある目がこちら睨んでいて、唇の端がきゅーっと笑いの形に吊り上ってる。

十人に聞いたら十人が「気持ち悪い」と言うであろう表情。描いたやつの気が知れない、というレベルの。

速攻で倉庫を出て、係長に進言した。

「持って来たはずの無い絵がある」

ちょっとした騒ぎになった。

すぐにその時の面子が倉庫に集められて、

「これ、誰が持ち込んだんだ」

と質問。

そしたら隣の部署の新人が手を挙げる訳だ。最早、彼以外の全員が「???」状態。

だってそんなもの運べなんて誰も指示していない。何でそんなことをしたのか。

新人「……よく覚えてないんですけど、俺が(ダンボールに)入れたような気がします」

係長「気がした、ってのはどういうことだ」

新人「すみません、よく覚えてないんです」

係長「………」

俺「土曜日、ここに運んだ時は箱には封がしてあっただろ。開けたのは誰なんだ?」

新人「あ、それも僕です」

俺「……何で? 今日あの寺から荷物の問い合わせでもあったの?」

新人「いえ……昨日、ぶらっと会社に来てこの絵を見てたから……」

係長・俺・その他「……………っ!」

つまりそいつは、わざわざ嫌な絵を運んで来たばかりか、日曜日に会社に来てその絵を眺めていたらしい。

休日で誰も居ない会社の倉庫で、一人で。

しかも彼は自分がそういう行動を取ったのは覚えているのに『何故そんなことをしたのか』がどうしても思い出せない、とのこと。

この時点で俺は鳥肌立ちまくり。係長も「こりゃヤバい」と判断したらしく、すぐ寺に連絡した。

後で聞いたら、電話の向こうで住職の息子さんがこんなことを言っていたらしい。

「ああ、付いて行っちゃいましたか。その人を怒らないであげてください。悪いのはその絵ですから」

……手伝いメンバー全員が寺に持って行くことを拒否したため、返却は運送屋さんに任せました。

泣く泣く再梱包したのはその新人だったが(笑)。

関連記事

隠し部屋

20年以上前の話なのですが聞いてください。 友人が住む三畳一間月3万円のアパートに遊びに行ったときのことです。冬の寒い日でしたが、狭い部屋で二人で飲んでいるとそこそこ快適でした。…

田舎の風景(フリー写真)

闇をさまよう女性

ある村に伝わる不気味な伝説がある。 その名は「クギヌシ様」と呼ばれる。 どこから現れるのかは分からないが、黒い帽子をかぶった女性の姿をしており、村に悪をもたらすと言われて…

海(フリー写真)

海ボウズ

俺の爺ちゃんの話。 爺ちゃんは物心が付く頃には船に乗っていたという、生粋の漁師だった。 長年海で暮らしてきた爺ちゃんは、海の素晴らしさ、それと同じくらいの怖さを、よく寝物語…

お屋敷(フリー写真)

お屋敷の物品回収

古い物を家主の居なくなった家から回収し、業者に売りに出す仕事をしています。 一般の人から依頼があって回収する事もあるし、解体業者からお呼びが掛かって現場へ出向く事もあります。 …

蛍(フリー写真)

赤ちゃんの声

何年前だったかは今はもう覚えていません。 でも当時は凄く暑くて、扇風機を点けっ放しで寝ていたので、夏であることは確かだったと思います。 熱帯夜というやつですね。暑いと本当に…

百物語の終わりに

昨日、あるお寺で怪談好きの友人や同僚と、お坊さんを囲んで百物語をやってきました。 百物語というと蝋燭が思いつきますが、少し変わった手法のものもあるようで、その日行ったのは肝試しの…

銭湯の鏡

貧乏なアパート暮らしの女です。 風呂が無いので銭湯に行ってる。 いつもの銭湯が休みだったから、ちょっと遠くの銭湯に行った。 浴室には数人のオバちゃんがいて、楽しそうに…

忌箱(長編)

これは高校3年の時の話。 俺の住んでた地方は田舎で、遊び場がなかったんで近所の廃神社が遊び場というか、溜まり場になってたんだよね。 そこへはいつも多い時は7人、少ない時は3…

窓

呪文を唱えなければ

自分は母方の血をひく霊感の強い親戚が多い中、父方の血が強く霊感はほとんど感じませんでした。そのため、怖い話の特集が載っている雑誌を枕元に置いて、寝る前に読むことも平気でした。 …

夜のアパート(フリー素材)

古戦場の近くにある寮

今から八年前の五月に体験した話。 当時は大学の寮に住んでいたのだけど、その寮は凄かった。 古戦場の近くで、その霊を供養するお寺が近所にあり、更に寮の隣の竹林には首塚があっ…