
「鳥山明ロード」という、いささか奇妙な都市伝説をご存じだろうか。
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それは、日本を代表する漫画家・鳥山明氏が、地元愛知県から東京への引越しを考えたことに端を発する。
この移住の意向を知った地元行政が、彼の莫大な税収が県外へ流出することを恐れ、ある大胆な対応を取った――というのである。
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なんと、鳥山明氏の自宅から、当時の名古屋空港(名古屋飛行場)まで、直通道路を急遽整備したというのだ。
通称「鳥山明ロード」とも呼ばれるこの道は、空港アクセスを飛躍的に高め、彼の移住を阻止するために行政が取った特別措置だったと噂されている。
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しかし、この伝説には大きな矛盾がある。
実際、そのような「直通道路」は存在していないのである。
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この噂が広まったのは、まだ中部国際空港(セントレア)が開港する前の時代。
交通インフラも今ほど発達しておらず、愛知県の一部地域から空港までのアクセスが不便だったことが、こうした伝説の背景にあったのかもしれない。
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だが現実には、すでに中部国際空港へは県道583号が連絡しており、名古屋飛行場付近には国道41号線と、それに併走する名古屋高速16号一宮線が存在していた。
また、開港後はアクセスの利便性も格段に向上し、交通の不便さを理由に誰かが移住を断念するような状況は解消されている。
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この話が語られた当時の地域事情や、鳥山明氏の国民的な影響力が、伝説の信憑性に拍車をかけたのかもしれない。
とはいえ、「鳥山明ロード」は、今となっては存在しなかった“幻の道路”として、静かに語り継がれている。
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この不思議な噂は、インフラと個人の影響力、そして人々の想像力が織りなす、現代の“神話”のようなものなのかもしれない。