空き家の内側から閉まる鍵
埼玉北部の分譲地に建つ空き家の錠を、私は錠前技師として二日がかりで十一箇所すべて交換した。前の持ち主は施設へ移るとき、鍵を一本だけ持って行ったという。作業を終え…
埼玉北部の分譲地に建つ空き家の錠を、私は錠前技師として二日がかりで十一箇所すべて交換した。前の持ち主は施設へ移るとき、鍵を一本だけ持って行ったという。作業を終え…
これは録音の仕事で出会った怖い話。昭和六十三年の夏、廃鉱の飯場跡で、深夜番組のために一晩ぶんの無音を録ることになった。地下へ降りる階段は十三段。だが朝、上がって…
平成のはじめ、山あいの養蚕集落の空き蔵で、赤い組紐に十文字に巻かれた小さな桐の箱を見つけた学芸員の私。持ち帰った夜から、天井で鳴る音と、どこからともなく絡みつく…
数年前の春、北陸の小さな漁港で、霧の夜に音もなく港へ戻ってきた一隻の漁船を見た。船体に書かれていたのは、半世紀前に沈んだ船の名前だった――冷静に語られる、海辺の…
解体予定の古い吊り橋を取材した日のこと。同行のカメラマンが車に戻ってから様子がおかしくなり、彼は私に足元を見てくれと言った。…
建て替え前の旧病棟。空室のナースコールが瞬き、担当一覧に知らない名前が混ざる。三時十四分、私のIDで誰かが彼女のカルテを開いていた。…
深夜に見知らぬ老婆から電話がかかってきた。相手は俺のフルネームも母の旧姓も知っていた。そして「あなたのお兄さんに頼まれた」と言った。…
家賃が相場の半分だった、元仕立物屋の古い借家。北側の四畳半で眠る私の壁の中から、毎晩、何かを数える声がした。慣れてはいけないと祖母に言われた矢先、枕の中から現れ…
まだ誰もがカセットテープを使っていた頃、亡くなった叔父の遺品だという一本を借りた。深夜、録音が終わった無音に、波の音と、抑揚のない男の声が混じる。海に浮かぶもの…