駅の下にもうひとつの駅
町でいちばん深い地下駅には、昔から避難場所になるという噂があった。乾いた風、下を向いた非常口、一拍長いエレベーター、地下五階の求人。延伸工事で配線を引いた父は、…
町でいちばん深い地下駅には、昔から避難場所になるという噂があった。乾いた風、下を向いた非常口、一拍長いエレベーター、地下五階の求人。延伸工事で配線を引いた父は、…
平成五年、山梨の小さな町。深夜の空白の枠に、名前のない番組が映った。画面の中の公園は、なぜか私の町とそっくりで、消灯の順番まで同じだった。最終週、動かないはずの…
丹波の谷の朝は、鳴るはずのない六時の鐘で始まった。鐘楼の鐘は昭和19年に供出されたのに、先代住職が空を撞くと谷いっぱいに音が響く。霜の丸い融け跡、受領印のない台…
昭和41年、伊那谷の旧家へ奉公に上がった私が最初に教わった決まりは、五人家族に膳を六つ出すことだった。湿った茶碗の縁、誰もいない部屋の青い畳、毎年育っていく誂え…
終戦間際に消息を絶った一機を、祖父は五十三年間、旧滑走路の端で待ち続けました。霧の夜に響いた発動機の音と若いままの声、残された航空時計の針が指す時刻。整備員だっ…
築四十五年の学生アパートで金縛りに遭い、窓一面を埋め尽くす無数の顔と目が合った夜。幽霊の知識がない私がとっさにした「あるお願い」で、顔たちは揃って呆れ顔になり消…