中小ソフトウェアハウス
中小ソフトウェアハウスに勤めていた友人Kの話です。
あるプロジェクトの納期がきつくデスマーチとなり、Kとその先輩は連日徹夜で作業していたそうです。
ところが、以前のプロジェクトも見積りミスで徹夜続きだった先輩が納期間近に倒れて早退し、結局そのまま亡くなってしまいました。
残されたKも悲惨で、人手が割けずに単独プロジェクトを続行することになりました。
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ある日、徹夜で作業をしているとキーボードを叩く音や、先輩の癖を思わせる足音が聞こえて来ました。
納期前夜、一人で最終チェック中に不具合を発見し、慌てて修正作業を始めたものの、どう考えても間に合いません。
そんな日もやはりカツコツ歩き回る音がするので、いい加減に頭に来たKが
「邪魔するんなら出て行ってくださいよ!」
と叫びました。
しかし一時的に足音は止んだものの、暫くしたらまたキーボードを叩く音が聞こえます。
もう完全無視で作業を続け、朝日が昇っても最後の不具合が取り除けませんでした。
仕方がないので如何に謝り抜くかを考えながら、動作チェックをかけていた時のことです。
最後に残っていた不具合が何故か綺麗に消えていました。
おかげで納期に何とか間に合い、Kは『きっと無意識に直したんだな。俺って凄いじゃん』くらいに思っていました。
ところが、後でその部分のソースコードを見ると、コメントを付ける癖が先輩のものとしか思えませんでした。
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程なくちょっとした噂になり、尻に火が点いた新人が何人かその開発室で徹夜を試みたそうです。
しかし結局何も起こらず、間に合わない案件が今も多数だと聞いています。
先輩は思い残しを処理して成仏したのなら良いけれども、新人には甘くない方だったから、自分の尻は自分で拭かせているのかもしれない、とKは言います。