彼の予見

公開日: ほんのり怖い話 | 不思議な体験

pb_b_20070401

昔付き合っていた彼氏の話。

当時高校生だった私は、思春期にありがちな『情緒不安定』で、夜中に一人で泣く事が多かった。

当時はまだ携帯なんて高嶺の花で、ポケベルしかなかったんだけど、夜中に泣いていると必ず『アイタイ』と彼氏からメッセージが。

『イイヨ』と返事をすると、本当にすぐまた返事が来る。

道が混んでいなくても車で15分はかかる距離なんだけど、いつもぴったり15分で来る。

ポケベルを鳴らしてすぐ出掛けたとしか思えないくらいの時間。

泣いていない日はそういうメッセージが来ないという事に気付いたある日、さりげなく「何でそんなしょっちゅう会いに来るの?」と、冗談めかして聞いてみた。

すると彼氏は、最初は話したがらなそうな素振りをしていたので世間話に変えたが、一時間程してポツリと呟いた。

「いつも夢でお前が泣いてっから、気になって来たら、真っ赤な目パンパンに腫らしてっから、夢を無視出来なくなった」

そんな彼氏が亡くなって7年経つ。

亡くなった7年前は、彼氏は東京の大学に行って遠距離恋愛でした。

家業を手伝っていた都合上、地元の京都と東京を週2回は往復していたので、週1回は会っていたと思います。

学校も真面目に出席していて、睡眠時間は1日3時間ぐらい。

心配していましたが、彼は取り合いませんでした。

5月のある日、彼氏からポケベルに『ゴメンナ』とメッセージが入りました。

謝られる覚えはなかったので、『何の事?』と返したものの、返事は来ない。

その数時間後、彼氏は亡くなりました。

風邪をこじらせて入院していたのは知っていましたが、実は心臓が悪かったらしく、過酷なスケジュールをこなす為に睡眠薬とカフェイン系の薬を交互に過剰摂取した結果、過労で倒れて風邪をもらい、弱かった心臓に負担が掛かった事が原因でした。

私はもちろん、彼のご両親も心臓の事は知りませんでした。

でも後から考えると、おかしな事が何度もあったのです。

二人で眠っている夜、話し声に目を開けると、彼氏が誰かに喋りかけている事が何度かありました。

大抵は、

「何でそんなに早いんだよ」

「時間をくれ」

「あと○年でいい」

そんな内容だったと思います。

後年になって彼の周りの人が、彼は亡くなる前に自分の死を必ず予見していたと、彼のご両親も話していました。

もしかしたら彼は、『彼を迎えに来てた人』と会話していたのかもしれません。

人より第六感というか霊感というか、そんな感覚が優れていたらしい彼が、どんなに恐くて怯えていただろうか…と、何も出来なかった事だけが心残りです。

ちなみに彼の死後、ご両親によれば、

「部屋の整理どころか、捨てる物と誰々に譲って欲しい物を、全部分けていた」と話していました。

「遺品の整理までしやがって。親孝行に見えるけど、親より先に逝くのを知ってたのに隠して、何て親不孝な息子だ」

親父さんが泣きながら笑っていた事を、今でも忘れられません。

関連記事

異世界村(長編)

自分の体験した少し現実味のない話です。 自分自身、この事は今まで誰にもしたことがないし、これからも話すつもりはありません。 それにこの書き込み以降、僕が他人と話ができる状況…

廊下

迷宮と煙草

私は都内で雑誌関係のライターを担当しています。 多岐にわたるテーマの記事を手がけるため、日常は刺激に満ちていると言えるでしょう。 その中で、オカルト関連の記事は、読者から…

ちょっとだけ異空間に行った話

ドラッグか病気による幻覚扱いにされそうだけど、多分、ちょっとだけ異空間に行った話。 就活で疲れ果てて横浜地下鉄で眠り込んでしまった。 降りるのは仲町台。夕方だったのに、車掌…

見覚えのある手

10年前の話だが、俺が尊敬している先輩の話をしようと思う。 当時、クライミングを始めて夢中になっていた俺に、先輩が最初に教えてくれた言葉だ。 「ペアで登頂中にひとりが転落し…

風鈴(フリー写真)

裏の家のおじいさん

数年前の夏、高校生の時に体験した話です。 その日はとても蒸し暑かったのを覚えています。 夏休みになったばかりで、特にする事のなかった俺は、クーラーをガンガンにかけて昼寝をし…

雑居ビルの怪

今からもう14年くらい前の、中学2年の時の話です。 日曜日に仲の良い友人達と3人で映画を観に行こうという話になりました。友人達を仮にAとBとします。 私の住んでいる町は小さ…

沼(フリー写真)

そこなし沼にて

親父は教師をしており、俺は小学二年生まで教員住宅に住んでいた。 俺の家の裏は林になっていて、そこに『そこなし沼』と呼ばれる沼があった。 その周りではクワガタが沢山捕れるの…

存在しない廃墟

小学校低学年の頃に都内某区に住んでたんだけど、近所に有名な廃墟があった。 ある日友人達数人と一緒にそこへ探検に行こうという話になって学校の帰りに行ってみた。 でも、いざ到着するとみんな…

神様のお世話

俺小さい頃母親に軽い虐待っぽいものを受けてたのね。 でも当時はまだ小さくて、おまけに母子家庭で一人っ子だった俺は、他の家の家庭環境なんて分からないし、同い年の子がどういう風に親と…

田舎の風景(フリー素材)

おごめご様

おごめご様というのがいると、従妹から聞いた。何でも小学校に出るらしい。 その小学校には俺も通ったんだが、旧館と新館に分かれている。 その二つの棟を繋ぐ渡り廊下の側、植え込み…