山では不思議なことが起きる

61dd870b

この話を聞いたのはもう30年も前の話。

私自身が体験した話ではなく、当時の私の友人から聞いた話。

その友人は基本リアリストの合理主義者で、普段はTVの心霊番組や心霊本などは信じない奴だった。

しかし、そいつは山登りが趣味で、その山登りの時の体験で、

「俺は基本、心霊話は信じないけど、山では稀に理屈だけじゃ説明できないことが起きる、ということは認めざるを得ない」

と言って話してくれた体験談。

その時、私の友人は男女混合の5人のパーティーで、3月頃に登山としては比較的初心者向けの登山に行ったんだそうだ。

その山道で、昼間の明るい内に、見た目は全く普通に見える女性の登山者とすれ違った。

でも、しばらくするとまた同じ女性とすれ違った。

結局3回ほど同じ女性とすれ違ったけど、そいつは偶然似たような女性とすれ違っただけだろうと思い、その時はそれほど気にしなかった。

そして、登山道の途中の休憩所でひとまず休憩をしたんだが、その時にまたそのすれ違ったはずの女性が居た。

流石に不思議に思い、他の奴に「あの女性、何度かすれ違わなかったか? 私の気のせいか?」と尋ねたところ、「実は俺も気になっていたんだよ」とのことだった。

そんな2人の会話とは関係なく、同じパーティーの中の人見知りをしない女性が、

「お一人ですか? もしよろしかったらご一緒しませんか?」

と声をかけた。

そうしたら、その女性は

「じゃ、お言葉に甘えてご一緒させて頂きます」

と返事をし、一緒に登山を続けることになった。

日程は一泊二日の予定だったから、その日の晩は男女別々に複数のテントを立て、その誘った女性もパーティーの女性と一緒に寝ていた。

すると、深夜になってからその女性が寝ているテントから女性の悲鳴が聞こえた。

驚いてみんながテントから出てみると、その誘った女性が崖に向かって普通に歩いていた。

そして、同じテントに寝ていた女性が言うには、その女性が寝ていたところが水を零したようにぐっしょりと濡れていたらしい。

とにかく非常事態だったから、みんなは「そっちは崖になっていて危ないから、早く戻って来なよ」と声をかけたが、その女性はそのまま歩き続け、とうとう崖の縁を越え、その瞬間フッっと消えてしまった。

みんな驚いて、事故だったら大変だからと捜索しようかと思ったが、何せ深夜で下手に動くと二次災害にもなりかねないので、ひとまず日の出を待った。

陽が昇ってからその崖下をみんなでその女性を捜したが、死体は愚か一切の痕跡が全く見つからなかった。

それで、そのパーティーのみんなで、

「昨日、あの女性とは、何回かすれ違っていなかったか?」とか、

「でも、一緒にいて、ちょっと無口だとは思ったけど、普通にしか見えなかったよね」とか、

そんな話をしたのだそうだ。

この話はここまで。悪いがこれ以上の落ちはなし。

こいつがこの手の話をしたのは、その時が最初で最後だった。

だから、今でも本当にあったことなんだろうと私は思っている。

関連記事

公園

誰も居ない通学路

20年近く前の話になります。当時、私は小学4年生でした。近所の公園には、変わったすり鉢状の滑り台があり、小学生には大人気でした。学校が終わると、そこで親友のT君と遊ぶ約束をしていまし…

異なった世界のスイッチ

アサガオが咲いていたから、夏の事だったと思う。 私は5歳で、庭の砂場で一人で遊んでいた。 ふと顔を上げると、生け垣の向こうに着物姿の見知らぬお婆さんがニコニコして立っている…

8周目

俺には、幼馴染の女の子がいた。家も近くて親同士の仲も良く、俺とその子も同い年ってこともあって小さい頃から一緒に遊んでた。 まあ、大体そういう関係ってのは、歳を取るにつれて男の側が…

山の上の廃病院

高校生の時の実話。 地元の中学校時代の友達2人と、近くの山に肝試しをやりに行こうという話になった。 その山はそれほど高くなく、頂上が広場になっている。そばに病院が建っており…

ホテルの部屋(フリー写真)

真っ黒い塊

2年程前の話です。 広島から都内の会社の内定式に参加した私は、そのまま会社近くのビジネスホテルに一泊する事にした。 そのホテルは1階と2階が証券会社。3階と4階が客室。5階…

花魁の襖絵

友人Mが大学生だった頃のお話です。 名古屋の大学に合格したMは、一人住まいをしようと市内で下宿を探していました。 ところが、条件が良い物件は尽く契約済みで、大学よりかなり離…

繋ぎ目

中学生の頃の夏の話。 そろそろ夏休みという時期の朝、食事を終えてやっとこ登校しようと、玄関に向かったんだ。 スニーカーのつま先を土間でとんとんと調整しながら引き戸の玄関をガ…

女性のシルエット(フリー素材)

イトウ

高校から現在にかけて、俺の周りをウロチョロする謎の同級生がいる。 高一の時に言われたのが一番最初。夏休み明け直後の日だったのだが、いきなりクラスの奴に 「イトウって知ってる…

ガラス窓(フリー写真)

ガラスに映る人

私はN県の出身で、私が住んでいる街には、地元では有名なカトリック系の女子大があります。 私の母はその大学の卒業生でもあり、その頃講師として働いていました。 当時中学生だった…

着物を着た女性(フリー写真)

止まった腕時計

友達のお父さんが自分にしてくれた話。 彼には物心ついた頃から母親が居なかった。 母親は死んでしまったと、彼の父親に聞かされていた。 そして彼が7才の時、父親が新しい母…