幽霊船
これは、もう亡くなった曾祖父に聞いたお話です。
曾祖父が亡くなる数ヶ月前、どうしたことか、親戚を集めて色々な話を聞かせてくれたのです。
私の実家は鹿児島県のとある離島なんです。凄く田舎で、さらに曾祖父の時代ですから電気とかもまだちゃんと通っていなかった時代の話です。
ある日、曾祖父は知合いと漁に出たんです。嵐になりそうな日だったらしいです。魚って嵐の前とかって海でじっとしてるから釣れやすいんですよ。
それで、どんどん釣れるのでどんどん沖に出て漁をしていたらしいのです。
知合いの船とはとっくに離れてしまってもう見えなくなっていたみたいです。
そうしたら、急に風が強くなり海が荒れてきて、かなりやばい状態になったそうです。
そろそろ帰らないと真面目にやばいと思って帰ろうとしたそうなんですが、魚が沢山釣れるのに夢中で、島はかなり遠ざかっているのに気付かなかったそうです。
霧は濃くなってきたし、波は荒れてくるし、かなり覚悟を決めたそうです。
そうしたところ、霧の向こうから何やら大きな舟の影が見えたんです。
『乗り移らせてもらえば助かる!』とっさにそう思って、舟がこちらに近付いて来るのを待っていました。
当時、木舟には水が入ってきたとき、すくって捨てるように杓子が備え付けられていたんです。
近付いてきた大きい舟の人が上から杓子を渡すようにジェスチャーしました。
曾祖父は嫌な予感がしてとっさに杓子の底を割って大きい舟に乗っている人に渡したんです。
そうしたらその人は杓子で何回も曾祖父の舟に水をすくっていれようとするんです。
もちろん、底が割ってあるので水は溢れます。曾祖父は気が長くなる程ずっと大きい舟の人たちに杓子で水を入れられていたそうです。
それから、霧が晴れてきて、大きい舟はどんどんと遠くなって行きました。
曾祖父は必死に舟を島まで漕いで帰ったそうです。
沖では、みんなもう曾祖父はダメだろうと思っていたみたいなので、かなり吃驚されたそうですが…。
最後に、曾祖父が言ったのは『あの幽霊舟に、一緒に漁に出た知合いが乗っているのが見えた。そいつは帰ってこなかった』と言っていました。
それから数ヶ月して曾祖父は亡くなりました。それから、日本昔話で幽霊船の話を見て凄くゾッとしました。
本当かどうかは知らないのですけど、実家の島は毎年よく人が海で行方不明になったり、不思議なことが起こったりするみたいです。