迷い道

abstract-art-colorful-15-HD-pics-3

昔、某電機機器メーカーの工場で派遣社員として働いていた時の話。

三交代で働いていて、後一ヶ月で契約が切れる予定で、その週は準夜勤(17:00~0:30)でした。

当時は運転免許も持っておらず、通勤は自転車でした。

工場から自宅アパートまでは一本道の国道で、時間的には30分くらいの距離でした。

その日もいつものように仕事を終え、会社を出て家路についたのですが、10分くらいして、今自分が全然知らない道を走っている事に気がついたのです。

仕事で疲れていて、知らないうちに道を間違えたのかと一瞬思いましたが、家までは一本道だし、もう一年以上も行き来しているので間違えるはずがありません。

今自分が走ってる道も見た感じは国道ですし、知らない場所という以外は、特に変わったところもないように思いました。

まだ携帯電話などは持っていませんでしたので、誰かに連絡を取ることも出来ず、取り敢えずこのまま行ってコンビニか公衆電話を探すことにしました。

しかし、いくら行ってもどちらも見つからず、時間も2:30を越えていました。

その時気が付いたのですが、この辺は確かに田舎だけど、いつもなら国道は夜中でも車が時々走ってるはずなのに、道が分からなくなってから一台も見てないのです。

あまりの異常さに段々パニックになってきて、それから多分40分くらい訳も分からず必死にペダルを漕いでいました。

そして「このまま走ってても埒が明かない。その辺の人家で道を聞くしかない」と、やや朦朧とした意識の中でそう思った時に、急に見慣れた場所にいる事に気が付いたのです。

そこは自分のアパートを200メートルくらい過ぎた場所だったのです。

急激な安堵感が頭を駆け巡ると共に、一刻も早く帰りたかったので、急いで道を引き返してアパートに帰りました。

そして、部屋に入るなり倒れ込むようにして、暫く身動きが出来ませんでした。

段々落ち着いきてから時計を見ると、もう3:30を回っていました。

冷静になって考えてみると、真っ直ぐ走ってきてアパートの前を通り過ぎたということは、道は間違ってなかったという事だから何時間もかかるはずがないし、アパートの横はコンビニだったので、その前を通過したのならいくら朦朧としていても、店内や看板の強い照明で通り過ぎる前に気が付いたはず。

もう考えれば考える程訳が分からなくなって、その日は眠りに就きました。

その週は、残り三日を体調不良で休んで、次の週は本当は夜勤だったのですが、無理を言って残りの一ヶ月は全て昼間の勤務に変えてもらって退職しました。

あれからもう17年経ちましたが、この事があってから夜はあまり出歩かなくなり、仕事も夜勤などは怖くてなるべくしないようにしてきました。

それにしてもあの体験は一体なんだったのでしょうかね。

関連記事

巨木(フリー写真)

巨木への道

この話は、俺が以前旅先で経験した事実に基づいて書かせて戴く。 N県の温泉へ車で2泊3日の旅行へ出かけた時の話。 移動の途中で『森の巨人たち100選』と書かれた標識が突如現れ…

煙草

子供の頃、田舎のおじいちゃんの家で、ひと夏過ごした事がある。ある日、沢までわさびを取りに山の奥までおじいちゃんと行った時のこと。 季節は夏で、青々とした雑草やらシダやらがその細い…

田舎の風景

白ん坊

このお話の舞台は詳しく言えないけれど、私の父の実家がある場所にまつわるお話。 父の実家はとにかくドが付く程の田舎。集落には両手で数えきれる程しか家がない。 山奥なので土地だ…

玄関(フリー写真)

ただいま

俺が高校生だったある深夜、母が部屋に来て起こされた。 祖母が亡くなったということだった。 俺の実家は新潟県で、祖母は二年程前までは一緒に過ごしていたが、容態が悪くなってか…

ゴムまり持った女の子

私がまだ花の女子大生だった頃のお話です。 私の学科用の校舎は新設されたばかりでまだぴかぴか。最上階には視聴覚設備用の特別教室があり、その上にパイプスペース用の小部屋だけがある階が…

コンサートホール

某コンサートホール

以前、某コンサートホールでバイトをしていました。その時の体験を話そうと思います。 初めに気が付いたのは、来客総数を試算するチケット・チェックの場所でした。 私たちはもぎった…

体育館(フリー写真)

異世界の体育館

中学一年の夏休み、部活で合宿に行った。 合宿所の体育館で遅くまで練習した後、三年の先輩に付き合ってもらって練習していた。 フローターは同級生で一番最初に打てるようになったの…

街のショップ

開かない自動ドア

大学二年生の夏休みが近づいた頃、私に不思議なことが起こり始めた。 突如、コンビニやスーパーなどの自動ドアが私に反応しなくなったのだ。 以前は普通に使えていたコンビニの自動…

海から来たるもの

普段付き合いのいい同僚が、何故か海へ行くのだけは頑として断る。 訳を聞いたのだが余り話したくない様子なので、飲ませて無理やり聞き出した。 ここからは彼の語り。ただし、酔って…

幽霊船

これは、もう亡くなった曾祖父に聞いたお話です。 曾祖父が亡くなる数ヶ月前、どうしたことか、親戚を集めて色々な話を聞かせてくれたのです。 私の実家は鹿児島県のとある離島なんで…