無音の電車

ローカル駅(フリー写真)

学生時代の当時、付き合っていた恋人と駅のホームで喋っていました。

明日から夏休みという時期だったので、19時を過ぎても空が明るかったのを覚えています。

田舎なので一時間に一本しか電車が来ず、来ても一人か二人しか降りる人は居ません。

19時半を過ぎた頃、19時の電車が私達を通り過ぎてようやく空が赤くなった事を知り、そろそろ帰ろうかと立ち上がりました。

その時です。トンネルの向こうでライトが見えました。

19時の電車の後は21時着の電車しか無いはずなので、彼と二人で「何だろうね?」とトンネルを眺めていました。

すると、トンネルの中から見慣れぬ緑色をした車両の電車が出て来ました。

この地域に緑色の電車なんて走っていません。

私と彼は呆然としながら、緑の電車が近付いて来るのを見ていました。

すると彼がボソッと言いました。

「あの電車、音がしないな」

そう言われてみて初めて気が付きました。

電車の走るガタンゴトンという音が無く、無音で私達に近付いて来るのです。

スピードは普通の電車くらいでしょうか。音の無い緑の電車は、私達の前に停まりました。

そしてスーッとドアが開き、中を見ると無表情な運転士が私達をジッと見ていました。どんな人かはあまり記憶に無いです…。

咄嗟に彼が「あっ、乗りません」と言うとドアが閉まり、また無音で動き出しました。

そして電車が目の前を通り過ぎ、後部を見せた時に気持ち悪いものを見てしまいました。

後部に20人くらいの人がぎゅうぎゅうに詰まって居て、全員が私達をジッと見ていました。まさに老若男女といった感じの人達です。

その後の記憶はあまり無いです。

先日、同窓会で彼に久しぶりに会い、思い出したので書きました。

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