マンデラ効果

玄関

これは私が中学生の頃、夏休みを目前に控えた、蒸し暑いある朝の出来事です。

朝食を終え、のんびりと準備を整えて玄関に向かいました。

スニーカーのつま先を土間にとんとんと叩きつけ、履き心地を調整しながら、私はいつものように引き戸を勢いよくガラガラと開けました。

すると、そこに広がっていたのは見慣れた家の外の景色ではなく、また玄関だったのです。

玄関を出たはずなのに、目の前には土間があり、さっきまで自分が立っていた玄関がそのまま存在していました。

驚いて振り返ると、そこにも玄関がありました。

私の家の玄関同士が、引き戸一枚で向かい合わせに繋がっている奇妙な状況になっていたのです。

私は状況が理解できず、心臓が早鐘のように打ち始めました。

遅刻するかもしれないという焦りと、訳がわからない不安が入り混じり、2つの土間を何度も行き来しながらどうすればいいかを必死に考えました。

やがて私は、とにかく玄関を一旦閉めてみようと思いました。

もう一度慎重に玄関を閉じ、深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから再び玄関を開けました。

今度こそ、そこにはいつも通りの家の外の景色が広がっていました。

安心して玄関を出た私は、急ぎ足で学校へ向かいました。

しかし、あの不思議な出来事以来、私はどうやら元々自分がいた世界とは少し違う場所に来てしまったようなのです。

なぜなら、私の記憶にない「里中」という名前の友人が当たり前のように存在していましたし、北海道という県がいつの間にか存在していました。

それだけではありません。

私が知っているひらがなに「む」「あ」「い」などという文字はありませんでしたし、信号の色は私の知っている赤・白・紫ではなく、赤・黄・青に変わっていました。

また、私の世界では中国・韓国・台湾・北朝鮮はひとつの国でしたし、ハワイは日本の領土として当たり前に地図に載っていたのです。

初めは戸惑いましたが、あの日以来、私はこの新しい世界に慣れてしまいました。

もう戻れないのだろうと思いつつも、時々玄関を開ける瞬間、あの日の不思議な体験をふと思い出すことがあります。

関連記事

夜の峠(フリー写真)

標識

9年前の12月23日に、東京から沼津までバイクで出掛けた。 夜の帰り道、1号から熱海方面に適当に下りようとする。 夜中の2時頃に前のブルーバードが曲がった南方向に行く細い…

セブンイレブン

未来のお店

俺が6歳の頃の話。当時の俺は悪戯好きで、よく親に怒られていた。 怒られたら泣きながら「こんな家出てってやるー」と言って家出し、夕御飯には帰って来るということがよくあった。 …

地下鉄

異次元の駅

今日、現実離れした体験をした。就職活動で疲れ果てていた僕は、横浜地下鉄でうたた寝をしてしまい、目的地の仲町台ではなく、終点で目を覚ました。しかし、そこは夕方のはずが、まるで真昼のよう…

ゴムまり持った女の子

私がまだ花の女子大生だった頃のお話です。 私の学科用の校舎は新設されたばかりでまだぴかぴか。最上階には視聴覚設備用の特別教室があり、その上にパイプスペース用の小部屋だけがある階が…

あやかし

工事中の仏閣を見た。仏像があるべき場所をクレーンのようなものでパーツがくるくる回っている。 俺は竹やぶに続く仏閣を参拝しようと山に入っていった。浅く霧がかかっていてなんとも神聖な…

教室(フリー素材)

M君の記憶

中学二年の終わりに引っ越す事になった。 引っ越しの前日、家の前を同級生のM君がブツブツ独り言を言いながら歩いているのを見つけた。 M君とは幼稚園から中学二年まで同じ学校で、…

田舎の田園風景(フリー写真)

ノウケン様

ついこの間までお盆の行事だと思い込んでいた実家の風習を書いてみる。 実家と言うか、正確には母方祖母の実家の風習だけど。 母方祖母の田舎は山奥で、大昔は水不足で苦労した土地…

夜の駅

静寂の駅にて

昔、北陸のとある地域に出張で訪れたときのことです。私はあらかじめビジネスホテルを予約しておき、そのホテルを拠点にお得意様を順に訪問して回る計画を立てていました。 その日の最後の…

山道

迷子の標識

9年前の12月23日、東京から沼津までバイクで旅に出た。 夜の帰り道、1号線から熱海方面に適当に折れようとした。深夜の2時頃、前を走るブルーバードが曲がった南方向に私もついてい…

森(フリー写真)

不思議な子供とおじいさん

20歳の頃だったか、まだ実家でプータローをやっていた時の話。 うちは物凄い田舎で、家のすぐ傍が森や山みたいな所だったのよ。 それで何もやる事がないし、家に居たら親がグチグチ…