子供だけに見えるもの

病院の廊下(フリー素材)

旦那の祖父が危篤の時の話。

連絡を受けて私と旦那、2歳の息子とで病院に向かった。もう親戚の人も来ていて、明日の朝までがヤマらしい。

息子はまだ小さいので病室にずっと居る訳にもいかず、もう夜で他の患者も居ないので一階のロビーで待機していた。

普段20時には寝る息子も普段と違う雰囲気が嬉しいのか、21時を過ぎても眠そうな気配が無い。楽しそうにしていた。

21時を回って、そろそろ夜も遅いし当番で義祖父に付き添うことにして、今日はもう帰ろうという話になってきた。

その時、息子が突然、

「じいちゃん!じいちゃん!」

と叫び始めた。

『病室に居る旦那の父のことかな?』と思ったので、

「じいちゃんは上で用があるから待ってようか」

と言っても、エレベーターまで行って

「じいちゃん!じいちゃん!」

と叫ぶ。

旦那が「連れて行こうか」と言うので、じいちゃんの居る病室へみんなで行った。

ところが旦那の父ではなく危篤の義祖父を指差し、

「じいちゃん!じいちゃん!」

と言うので、ああこっちのじいちゃんのことかと納得した。

「じいちゃんね、今ねんねしてるの。今日はもう遅いし、バイバイして帰ろうか」

と私が言い、息子が

「じいちゃんバイバイ」

と言ったその瞬間、義祖父の呼吸がおかしくなり、そのまま亡くなってしまった。

「じいちゃんは最後に○○(息子)に会いたくて呼んだんだねえ」

と、みんな口を揃えて言った。

その後、義祖父を家に連れて帰るためそのままみんな待っていだが、私と息子だけ先に車に戻っていた。

私は亡くなったことを実家の母に電話した。

ついでに息子も電話口に出させ、

「ばあちゃん会いたい」「ばあちゃん好き」

などと話していた。

その時、急に

「じいちゃん!」

と叫び出した(父は亡くなっていない)。

「じいちゃんじゃなくてばあちゃんでしょ」

と私が言っても、

「じいちゃんじいちゃん」

と嬉しそうな様子で話す。

電話を切っても、

「じいちゃんじいちゃん」

と繰り返す。

「じいちゃんどこにいるの?」

「あっち」

と病院を指差す。

「お母さんはじいちゃんがどこにいるかわからないから、○○君連れて行って」

そして車を降りると一目散に病院へ。

エレベーターの前で

「じいちゃん下!じいちゃん下!」

と言う。

私はまだ病室に居ると思っていたのだけど、取り敢えず地下のボタンを押し下に行く。

地下は一般に使われてないようで、目の前が壁で道が左右に分かれており、看板も無い所だった。

「じいちゃんあっち!じいちゃんあっち!」

と、息子が指差す方に行く。

何度も角を曲がって辿り着いた突き当たりに、親戚の人が集まっていた。

「あれー? みんなこんな所で何してるの?」

と言ったのと、状況を理解したのが同時だった。

みんなで義祖父を送り出すところだった。

「△△(私)なんでこんなとこに居るの?」

と言う旦那に事の顛末を話した。

一緒に見送りに来ていた医者と看護婦が、恐ろしいものを見るような目で息子を見た。

しかし親戚の人は、

「おじいさんはほんとに○○が好きで、見送ってほしかったんだねえ」

とほのぼのしていた。

その後、家に着いてから義祖父の亡骸を見て息子が「じいちゃん」と言う事は一度も無かった。

「じいちゃんどこ?」

と聞いてもしらっとして、解らない顔をしたり義父を指差したり。

子供というのは人間の身体を見ているのではなく、その中の魂を見ているのではないだろうか。

そして、その魂は死んで割とすぐ身体から離れてしまうのではないか。

私が死んでその死体を見ても、息子は「ママ」とは言ってくれないだろうなと、色々考える一日でした。

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