犬の気持ち

犬(フリー素材)

俺が生まれる前に親父が体験した話。

親父がまだ若かった頃、家では犬を飼っていた。

散歩は親父の仕事で、毎日決まった時間に決まったルートを通っていたそうだ。

犬は決まって親父の左側を歩き、決して右側を歩く事はしなかったそうだ。

これは親父が躾けた訳じゃなく、いつの間にかそうなっていたらしい。

犬の左側に回り込んで犬が右側に来るようにしてみたらしいが、何故か左側に戻って来る。

それが可愛くて、犬はそれ以降ずっと親父の左側を歩いていた。

ところがある日、犬が右側に来た。

驚いたし違和感もあったので、何度か左側に来るようにしてみたが、やはり右側へ。

不思議に思ったけど散歩に出掛け、最初の路地を右へ曲がろうとした時、右から来た車に犬が撥ねられ即死。

親父は咄嗟に、俺の身代りになるために右側に来たのだと思ったそうだ。

口から血を流して死んでいる犬を、世間の目も憚らず、抱きかかえながら号泣したそうだ。

子供の頃に聞いた話だが、聞いた時は大泣きした覚えがある。

それ以降、我が家に犬が居なかった事は一度も無い。

何か守られていると言うか、優しくなれると言うか…。動物は不思議だよな。

関連記事

エレベーター

赤い空のエレベーター

建築基準法によると、5階以上の建物にはエレベーターの設置が義務付けられているそうだ。 私が以前住んでいた、高速道路沿いのマンションにも当然エレベーターが一基設置されていた。 …

満開の桜

桜の木の下のふたり

夏の間はご無沙汰していたが、普段の休日には、近所の小さな公園によく足を運んでいた。 住宅街の真ん中にひっそりとあるその公園には、鉄棒とブランコ、そして砂場があるだけで、子どもの…

田所君

小学生のころ同級生だった田所君(仮名)の話。 田所君とは、小学5年から6年の夏休み明けまで同じクラスだった。田所君は、かなり勉強の出来るやつだった。 学校の図書館を「根城」…

狐さん(フリー写真)

小さなかぎ裂き

戦後暫く経った頃、地方のある農村での話。 村で一番の旧家の跡取り息子が失踪した。 山狩りをしても、池を浚っても見つからない。 お金か女性がらみのトラブルかと思い、人…

呼び寄せられた仲間

僕が大学生のころ。あれは確か昭和63年12月の出来事でした。 同じ高校の友達と2人で神戸三宮に出ていたら、別の高校卒業以来の友達と出くわした。 「おお、久々じゃないか」となって…

千仏供養(長編)

大学一回生の春。僕は思いもよらないアウトドアな日々を送っていた。それは僕を連れ回した人が、家でじっとしてられない性質だったからに他ならない。 中でも特に山にはよく入った。うんざり…

巨木(フリー写真)

巨木への道

この話は、俺が以前旅先で経験した事実に基づいて書かせて戴く。 N県の温泉へ車で2泊3日の旅行へ出かけた時の話。 移動の途中で『森の巨人たち100選』と書かれた標識が突如現れ…

アパート(フリー写真)

好条件物件

まだ自分が大学在学中、あれやこれやがあって、気分を変えるため引越しをすることにした。 大学のそばにある不動産屋で、大学と係わりの強いおばちゃんに条件を提示しつつ、お勧めの物件につ…

彼の予見

昔付き合っていた彼氏の話。 当時高校生だった私は、思春期にありがちな『情緒不安定』で、夜中に一人で泣く事が多かった。 当時はまだ携帯なんて高嶺の花で、ポケベルしかなかったん…

首刈り地蔵

小学生の頃、両親が離婚し俺は母親に引き取られ、母の実家へ引っ越すことになった。 母の実家は東北地方のある町でかなり寂れている。家もまばらで町にお店は小さいスーパーが一軒、コンビニ…