お迎え

公開日: 心霊ちょっと良い話

ビル(フリー写真)

二ヶ月前、以前在籍していた会社の社長が亡くなった。

就職の決まらなかった私を拾ってくれて、生まれて初めての『回らない寿司』を食べさせてくれた。

癌で入院しているのは知っていたけど、『肝臓癌10年連続余命半年宣言』という快挙を成し遂げていたので、『どうせまた帰って来るだろう』と、それほど気にしていなかった。

でも亡くなった日の早朝、突然目を覚ました私の目の前には、三年ほど前に交通事故で亡くなった別の役員さんの姿が…。

「あれー? 亡くなったんじゃなかったでしたっけ?」

その役員さんは生前と同様、にこにこ微笑むばかり。

ああ、何だか胸の辺りがあったかいなあ…と妙にリラックスして、再度眠りに落ちる私。

その翌朝、打ち合わせでその会社に行った時、やっとその意味が解った。

『迎えに来たから心配しなくていいよ』

と言っていたんだなあと。

お葬式で見た社長さんの死に顔も、見たことがないくらい穏やかだった。

「これで好きなお酒が好きなだけ呑めるねぇ」

と、みんな口々に言っていた。

この会社ではお世話になった人が何人か亡くなっているのだが、毎回何かしら事前にお知らせが来る。

自分が死んだ時、みんな向こうで一升瓶を抱えて出来上がっているのかと思うと…。

不死になる方法はないだろうかと心から思う。

関連記事

桜の木の神様

今は暑いからご無沙汰しているけど、土日になるとよく近所の公園に行く。 住宅地のど真ん中にある、鉄棒とブランコと砂場しかない小さな公園。 子供が遊んでいることは滅多にない。と…

将棋盤(フリー写真)

角の頭に歩を打て

先週、親父と将棋を指した。 欲しい本代を賭けての勝負だけに、負けられない一戦だった。 俺は親父から将棋を教わった。 当然親父の方が強い。実力にはかなりの差がある。 …

空(フリー写真)

爺さんの教え

学生の時、爺さんが末期癌でこの世を去った。 悲しかった。ただ、葬式では泣かなかった。泣けなかった。 「人前で泣くな」 が爺さんの教えだったから。 ※ 数日後、母か…

夜の海(フリー素材)

ばあちゃんのまじない

部活の合宿で、他の学校の奴も相部屋で寝ていた時の事。 ある奴が急に魘され、布団の上でのた打ち回り始めた。起こそうとしても全然起きない。そのまま魘され続ける。 起きている奴等…

戦時中の軍隊(フリー写真)

川岸の戦友

怖いというか、怖い思いをして来た爺ちゃんの、あまり怖くない話。 俺の死んだ爺ちゃんが、戦争中に体験した話だ。 爺ちゃんは南の方で米英軍と戦っていたそうだが、運悪く敵さんが多…

教室と黒板(フリー写真)

最後の宿題

俺の友達は、昔風に言えばヤンキーだった。 高校もろくに行かず、友達と遊び回っていたそうだ。 先生達は皆サジを投げていたそうだが、友達の担任の教師だけはそうではなかった。 …

ひよこ(フリー写真)

変り種の相棒

12年前、近所の社の祭でヒヨコを釣ったんだわ。体が歪んでいて、少し変わった形をしていた。 それでも懸命に俺の後を付いて来る姿がいじらしくて、散々甘やかし、可愛がって育てた。 …

トタンのアパート(フリー写真)

訳あり物件のおっちゃん

半年ほど前に体験した話。 今のアパートは所謂『出る』という噂のある訳あり物件。 だが私は自他共に認める0感体質、恐怖より破格の家賃に惹かれ、一年前に入居した。 ※ この…

蝋燭(フリー写真)

お地蔵さん

私の地元では年に2回「お地蔵さん」という行事と言うか、お寺のお参りイベントみたいものがあるんです。 あるお寺に行き、あの世で幸せにしていて欲しい亡くなった方の名前を読み上げて、…

糸と縫い針(フリー写真)

祖母の糸切りばさみ

20年程前の話。田舎で祖母が亡くなった時のこと。 母方の実家は地元では名士で、医者でも教師でもないのに、祖父は周りから先生と呼ばれていた。 そういう人なので、あちこちに愛人…