見守るふたり

公開日: 心霊ちょっと良い話

カメラのレンズ

ある写真店のご主人から伺った、忘れがたい話があります。

写真を現像する仕事をしていると、ごく稀に説明のつかないものが写り込むことがあるそうです。
そうした場合は、お客様に不安を与えないよう、長年の職人技で丁寧に修正してからお渡しするのが通例だといいます。

けれども、このご主人が過去にたった一度だけ、修正せずにお渡しした写真があるのだそうです。

ある日、就職活動用の証明写真を撮るために、高校生の娘さんとその母親が来店されました。
娘さんは店内の椅子に座り、通常通りの手順で写真撮影が行われました。

証明写真といえば、胸から上を写すのが一般的ですが、現像したその写真には不思議なことが起きていました。
写真には娘さんの全身が写っており、しかもその右側には品のある初老の紳士が、左側には優しげなご婦人が、それぞれにこやかな微笑みを浮かべながら立っていたのです。

店内には確かに娘さんと母親の二人しかおらず、撮影の際もその場に他の人物はいなかったはず。
もちろん、鏡の写り込みなどの可能性もなかったとのことです。

ご主人は困惑しつつも、なぜかその写真を捨てる気になれず、通常であれば不要な全身写真のほうを、カットせずに母親へ見せてしまいました。

写真を手にした母親は、一目見た瞬間に涙を溢れさせました。

「この人たち…私の両親です。娘が生まれる前に亡くなりました。生前は“早く孫の顔が見たい”と、会うたびに話していたんです。でも…きっと、こうしてずっと見守ってくれていたんですね…」

言葉を詰まらせながら、母親は肩を震わせて泣きました。
それを見ていた娘さんも、静かに涙を流しはじめ、気付けばご主人ももらい泣きをしていたそうです。

後日、ご主人はその不思議な写真に、そっと母親の姿を合成し、三人が並んで微笑んでいる一枚の家族写真として仕上げました。
写真は美しく引き伸ばされ、額に収めて丁寧に包装し、お渡ししたそうです。

「これは私の誇りの一枚なんですよ」

そう微笑んで語るご主人の目にも、うっすらと涙が浮かんでいました。
確かにそこに写っていたのは、どこか懐かしく、あたたかな家族の光景だったのです。

関連記事

犬(フリー素材)

犬の気持ち

俺が生まれる前に親父が体験した話。 親父がまだ若かった頃、家では犬を飼っていた。 散歩は親父の仕事で、毎日決まった時間に決まったルートを通っていたそうだ。 犬は決まっ…

空(フリー写真)

石屋のバイト

私は二十歳の頃、石屋でバイトをしていました。 ある日、お墓へ工事に行くと、隣の墓地に自分の母親くらいのおばさんが居ました。 なぜかその人は、私の働く姿を見守るような目で見て…

お花畑(フリー写真)

まだ来るな

僕には四つ下の弟が居て、彼はバイクで通勤していました。 ある日、彼が出勤途中に事故に遭い、救急車で病院に担ぎ込まれました。 僕にも連絡があり、急いで駆け付けましたが、彼は意…

戦時中の軍隊(フリー写真)

川岸の戦友

怖いというか、怖い思いをして来た爺ちゃんの、あまり怖くない話。 俺の死んだ爺ちゃんが、戦争中に体験した話だ。 爺ちゃんは南の方で米英軍と戦っていたそうだが、運悪く敵さんが多…

綺麗な少女

夏が近くなると思い出すことがある。 中学生の時、ある夏の日のことだ。俺は不思議な体験をした。 夏休みを迎えて、同世代の多くは友達と遊んだり宿題をやったりしていただろう。 …

イタリアの町並み(フリー写真)

ロベルト

これは俺が3年前の夏にイタリアのローマで体験した話です。 俺は大学でイタリア文学を専攻していて、大学4年の時に休学し半年間ローマに留学していた。 その時にローマの郊外にある…

蕎麦

おかめそばと約束の客

JRがまだ「国鉄」と呼ばれていた時代、地元の駅には一軒の蕎麦屋があった。 いわゆる「駅そば」だが、チェーン店ではなく、駅の外で営業している個人経営の蕎麦屋が契約して出していた店…

猫の親子(フリー写真)

魔法の絆創膏

俺がまだ幼稚園生だった頃の話。 転んで引っ掻き傷を作って泣いていたら、同じクラスのミヤちゃんという女の子に絆創膏を貰ったんだ。 金属の箱に入ったもので、5枚くらいあった。 …

山間の田んぼ(フリー写真)

小さな祠と石

うちの兄は10年ほど前に亡くなりました。 亡くなる前々日、いつもは帰ってすぐ部屋に入ってしまう兄が、珍しく私にPCの使い方を教えてくれました。 その事を思い出すと、今でも涙…

空(フリー写真)

夢枕に立つ祖母

俺にとってばあちゃんは『優しさ』の権化のような人だった。 いつもにこにこしていて、言葉を荒げることもなく、本当に穏やかな人で、家族みんなばあちゃんのことが大好きだった。 ば…