小さな猫のぬいぐるみ
公開日: 本当にあった怖い話 | 死ぬ程洒落にならない怖い話
先日、成人式後の同窓会で聞いた話。
T君はお父さんを小学生の頃に事故で亡くし、それからずっと母子家庭。
T君自身はそんな環境どこ吹く風と言った感じで、学級委員をやったりサッカー部の主将を務めたりと、文武両道に大活躍な学生時代を送っていた。
彼のお母さんもまた底抜けに明るく世話好きで、たまの休みの日にはT君やT君の友達を車に乗せて水族館に連れて行ってくれたり、サッカーの試合の応援にも来てくれるような人だった。
今でもT君とお母さんは仲が良いけれど、昨年T君が関西の大学に入学するのを機に、家を出て独り暮らしすることになった。
お母さんも独立には大賛成で、「しっかり勉強してくるのよ!」と激励の言葉で送り出した。
そして巣立ちの日に「寂しくなったりめげそうになったら、これをお母さんと思って頑張りなさい」と、手作りの小さな猫のぬいぐるみを手渡したそうだ(T君は無類の猫好きだった)。
※
見知らぬ土地で新たな生活を始めたT君。
一人暮らしを始めてから1ヶ月程経ったある日の夜、就寝中に突然目が覚めた。
意識がはっきりしてきた途端、『胸の上に誰か座ってる!』と直感したそうだ。
しかし体が動かない。目を開けようとしても、瞼もピッタリ閉じられたまま開かない。
『これが金縛りか』と自分でも意外なほど冷静に思ったそうだ。
ただ、胸に重しが乗っているように重くて苦しい。
長い間ウンウン唸っていたら、いつの間にかまた寝ていて、次に目が覚めた時は朝になっていたと言う。
部屋の中に異常は無く、誰かが侵入した痕跡もない。
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その日から、T君は度々夜中に金縛りに遭うようになっていった。
お陰で寝ても疲れが取れず弱ってしまったT君は、ある日、藁にもすがる思いでお母さんにもらった例の猫のぬいぐるみを手に持ったまま寝たそうだ。
お守り代わりと考えたんだろう。
しかし、その夜もまた金縛りにかかった。
T君は渾身の力で手に持った人形をぎゅーっと握り締めた。
すると、それまで固く閉じられていた目がフッと開いた。
T君の目に映ったのは、T君の胸の上で正座して、じっとこちらを見つめる寝間着姿の女の姿だったという。
「ヒィッ」と息が漏れるような悲鳴を上げて、T君は気絶したそうだ。
そして夜が明け目が覚めると、全身汗びっしょり、右手にぬいぐるみを力いっぱい握っていたという。
金縛りは1ヶ月程で起らなくなったそうだ。
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「慣れない環境での初めての独り暮らしで、精神的に参ってたのかもね」とT君は笑った。
「良い話じゃん。お母さんがぬいぐるみを通して、T君を守ってくれたんじゃない?」と言うと、T君は少し考えてから言った。
「それはどうかな。だって俺の上に乗っかってた女、どう見ても母さんだったからなぁ」