女性の肖像画

stood_beneath_an_orange_sky__by_alicexz-d41ay0g

今朝、鏡を見ていたらふと思い出した事があったので、ここに書きます。

十年くらい前、母と当時中学生くらいだった私の二人でアルバムを見ていた事がありました。

暫くは私のアルバムを見ていたのですが、気に入らない写真はすぐ処分してしまう私のアルバムはすぐ見終わってしまいました。

そこで母が兄の部屋にあったアルバムを持って来ました。

主に私の生まれる前に住んでいた家の写真ばかりだし、私以外の家族は写真を大切にする人達なので、アルバムは殆ど埋まってます。

歳が十以上離れた兄や姉が幼かった頃の写真や、若い母の写真を初めて見る私は、結構夢中でアルバムを見てました。

その中の写真の一枚に、誰も入ってなくて、ただ部屋だけを写したものがありました。

特に何か目に付くもののない、普通の日に普通に部屋を写しただけのような写真でしたが、私の記憶にはない『我が家』の写真は、私にとっては新鮮でした。

よく見るとその部屋の棚は一部がガラス張りになっていて、貴婦人のようなドレスを着た女性の肖像画が入っていました。

私「へぇ、こんなのうちにあったんだ?」

母「え? なぁに?」

私「この肖像画」

母「は? 何の事?」

私「だから、この飾り棚に入ってる綺麗なドレス来た女の人の絵だってば」

なかなか要領を得ない母に、写真の飾り棚を指差すと、母は無言で暫くその写真を見てから言いました。

母「そんな絵うちにはないよ」

私「えー……、だってここに写ってるじゃん」

もう一度写真を見ると確かに写ってるので、こう言ったんですが、母はうんざりしたようにアルバムを閉じます。

母「悪いけどこの写真にそんなの写ってないし、この部屋に飾り棚もなかったよ?」

そう言って母は煙草を吸いに台所に行ってしまったので、アルバムにも興醒めした私はそのまま居間でTVを観ていました。

やがて姉が帰って来ると、台所から姉の「アハ、……え? 本当?」という声が聞こえました。

どうやら例の写真の話をしたようで、姉はそのまま居間に来てアルバムを開きました。

暫くアルバムを凝視していた彼女ですが、少し気の抜けたような笑みを浮かべて私に声をかけてきました。

姉「ね、これに女の人写ってたって本当?」

私「女の人の絵」

姉「絵? どんな人?」

私「ドレス着た人」

姉「もしかして髪にパーマかかってた?」

私「そうそう、やっぱりちゃんと写ってるよね」

姉「否…………。髪の長さは?」

私「セミロングくらいかな、そんなに長くはない」

姉「あぁ、誰もいない部屋だもんね。棚に絵が入ってると思うよね」

私「ん? 何どういう事?」

姉「これね、飾り棚じゃなくて箪笥だよ」

姉の話だと私がガラス張りの飾り棚だと思っていたものは、鏡の付いてる箪笥だったのだそうです。

そして、そこは姉が昔寝ていた部屋だったと言うのですが、姉はこの箪笥にまつわる妙な体験をしたそうです。

姉がまだ二歳か三歳くらいの頃、その鏡にドレスを来た血まみれの女性が写ってるのを見たそうです。

姉は「夢だったんじゃないかと思うんだけど」と言っていましたが、その時一緒に寝ていた母は、姉が泣き叫びながら部屋を駆け回ってて目が覚めたと言います。

その箪笥の入手方法は詳しく聞かなかったのですが、母の口ぶりからどうやら中古だったようです。

結局、母にも姉にもその写真に女の人が写っていたようには見えなかったとのことです。

姉からアルバムを受け取り、私は釈然としないながらも、再びその写真を確認しました。

そして見た瞬間、二人の言い分が正しい事に気付いて、黙ってアルバムを閉じました。

まあ、そもそもその写真が撮られた時に影も形もない私が間違っているに決まっているのですが、その箪笥の鏡に写っているものが先程と違っていたのです。

否、写っているのは相変わらず女の人なのですが、先程は全身(だから絵だと思ったのです)だったのが、今度は左側のみのバストアップ、絵ではない事は明らかでした。

変な写真を見つけた場合、それが余りに気味が悪い時は塩かけて焼いてしまうのですが、その写真に女の人が写って見えるのは私だけのようでしたし、元々兄の物なので、兄には誰も何も言わずにアルバムを兄の部屋に戻しておきました。

後日、母に写真が変わっていた事を言ったら、母は冗談っぽくこんなリアクションを撮りました。

母「それって何だかどんどん近寄ってきてるみたい。次見る時は顔のアップになってたりしてね。あ、でもお姉ちゃんにはこんな事言っちゃ駄目よ、あの子ビビりだから」

姉ほどビビりじゃない私でも、写真そのものや姉の昔話よりもその言葉の方が余程不気味で、二度とそのアルバムは見ませんでした。

まあ、急にこんな事を思い出したのは、鏡を見て『なんだか自分の顔、あの写真の人に似て来たなぁ』と思ったのがきっかけなんで、発想の悪趣味さはしっかり遺伝しているようですが。

関連記事

田舎道(フリー写真)

ぼうなき様

ぼうなき様って知ってる? 想像以上にマイナーな行事だったので、地元から出て話題にした時は誰も知らなかった。 有名なS神社で行われる七五三の続きのような行事で、十歳前後の女の…

赤模様

赤いシャツの女

二年前の今頃の話。 その日、来週に迎える彼女の誕生日プレゼントを買いに、都内のある繁華街に居た。 俺はその日バイトが休みだったので、昼過ぎからうろうろとプレゼントを物色して…

小さな鍾乳洞

少し昔……と言っても15年以上前の話になる。 俺の地元には小さな鍾乳洞がある。 田んぼと山しかないド田舎だったので、町としても鍾乳洞を利用して観光ビジネスを興そうとしたらし…

爺ちゃんとの秘密

俺は物心ついた時から霊感が強かったらしく、話せるようになってからは、いつも他の人には見えない者と遊んだりしていた。 正直生きている者とこの世の者ではないものとの区別が全くつかなか…

ゲーム屋

大量のゲームソフト

10年前くらい前、ゲーム屋でバイトをしていた。 ある日、もうすぐ閉店時間という時に、突然60歳くらいのおばさんが大きなダンボールを抱えて店に入って来て、物凄い形相で「お金いらない…

早死一族

うちの爺さんの親父だか爺さんだか、つまり俺の曾祖父さんだか、ちょっとはっきりしないんだけど、その辺りの人が体験したという話。 自分が子供の頃、爺さんから聞いた話。もう爺さんも死ん…

クシャクシャ

その日はゼミの教授の話に付き合って遅くなり、終電で帰ったんだ。 俺の家は田舎で、それも終電という事もあり俺以外は車内に人は居なかった。 下車するまでまだ7駅もあったから、揺…

生き延びた男

これは本当にあった事件の話で、ある精神病院に隔離された事件の生存者の話です。 なので細部が本当なのか狂人の戯言なのかは分かりません。 しかし事件そのものは実際に起こり、北海…

無人駅

高九奈駅

今でも忘れられない、とても怖くて不思議な体験をしたのは、私がまだOLをしていた1年半前のことです。 毎日、会社でのデスクワークに疲れて、帰りの電車で眠るのが日課でした。混んでい…

レベル9

10年以上昔、進研ゼミの読者投稿欄にあった話。 『怖い夢を自在に見る方法』というタイトルが目に留まった。 「その方法とは、怖い夢を見たいと念じながら枕を踏んで寝るだけ。 …