病院への道

公開日: 洒落にならない怖い話

DSC_7348sanbe-s

数年前に務めていた病院が東北の田舎の山間にあったんだけど、ほんの少し一緒に働いてたおじさんに聞いた話。

「大分昔の事だよー」と前置きしてから話してくれた。

世間でいうお盆休み期間でも、病院に勤めてるとなかなかそういうのが取れない。

その日もいつもどおり業務を終えて病院を出ると終バス時刻まであと15分くらいだった。

病院を出て5分ほどの場所にある小さなバスの待合所の中は真っ暗だったので、真っ暗な山道の中でほんの少しだけ外灯の明かりが届く外に出てバスを待っていた。

バスが来る方向を見ながらウォークマンを聞いていると、町の方から一台の車が通りかかった。

おじさんの目の前で車が止まり、窓がサーっと開いた。

『何だ?』と思っていると、中から男の人が顔を出し、

「休みを利用して遊びに来たけれど、子供が熱を出してしまった。

救急病院に行こうとしてるのだが、道に迷ってしまった。

どこをどう行けば町に出られるか教えて欲しい」

みたいな事を言ってきた。

車の中からはエアコンの冷気が外に溢れ出し、蒸し暑い外にいるおじさんでさえ「寒っ」となってしまうくらいだった。

車に乗っていたのは、四人家族で運転席に父親、助手席に母親、後ろの席に4歳くらいの男の子が1人、その横にタオルケットをすっぽり被って横になっている小さな子がいた。

車内は暗くてよく見えなかったが、男の子はこの寒い車内の中、タオルケットを被っている子を必死で扇いでいたそうだ。

おじさんは、

「もうしばらく走るとUターン出来る場所があるから、そこまで行って今来た道を戻って行ってくれ。途中で新しく出来た道路があるからそこをまっすぐ…」

と、親切に町まで出る道順と、どこに救急病院があるのかを教えたそうだ。

父親と母親は「助かりました、ありがとうございました」と言って、車を走らせた。

少しすると、バスが来たのでおじさんはそれに乗り込んで家に帰った。

季節は過ぎて秋の山菜取りのシーズンになった。

地元の人は勿論、他の地域の人達も山菜を求めて山へやってくる。

その日もおじさんは仕事の為にバスで山道を通っていた。

すると、地元の警察がパトカーで何台も往復しているのが見えた。

『山菜取りに来て誰かが遭難したな』と思い、顔なじみの運転手に

「遭難でもあったのかね?」と話しかけると、

「いや、違うんだよ、今朝方ずっと向こうの山の方で子供の死体が見つかった」と予想外の答えが返ってきた。

話を聞くと、死体を発見したのは山菜取りに来た人で、山の中で何かに転んで躓いたらしい。

『何だ!?』と思って振り返ったら、一部が白骨化した子供の死体だったという。

どうやら、埋められていた子供の死体を野生動物がほじくり返したようで、食べられたような跡もあったそうだ。

犯人はそれからしばらくして逮捕された。

あの日、おじさんに道を尋ねてきた夫婦だったそうだ。

供述によると、「娘を出先でウッカリ死なせてしまった。捕まるのが嫌で人目につかない場所に埋めた」そうだ。

おじさんは暫くショックを受けていたそうだが、ある日ふと気がついた。

「あの日、俺に町まで行く方法を聞いてきたのは、子供を助けたいからじゃなくて、どこの道をどう行けば人目につかない子供を捨てられる所に行けるかを尋ねていたんじゃないだろか?」

そうだよな、おじさんの言う道と逆方向に行けば町から遠ざかるもんな。

関連記事

結婚指輪(フリー写真)

ムサカリ

俺は今は大きなデザイン事務所に勤めているのだけど、専門学校を出て暫くは、学校から勧められた冠婚葬祭会社で写真加工のバイトをしていた。 葬式の場合は遺影用としてスナップから顔をスキ…

地下の井戸(長編)

これを書いたら、昔の仲間なら俺が誰だか分かると思う。 ばれたら相当やばい。まだ生きてるって知られたら、また探しにかかるだろう。 でも俺が書かなきゃ、あの井戸の存在は闇に葬ら…

・・・からの電話

A、B、Cの三人が、卒業旅行で海辺にあるAの別荘に遊びに行った。 別荘から帰る前日、夜遅く三人で話をしていると、突然1本の電話が。Aが言うには、昼間、浜で地元の女の子と知り合い、…

ゲーム屋

大量のゲームソフト

10年前くらい前、ゲーム屋でバイトをしていた。 ある日、もうすぐ閉店時間という時に、突然60歳くらいのおばさんが大きなダンボールを抱えて店に入って来て、物凄い形相で「お金いらない…

チャイムが鳴る

ある蒸し暑い夏の夕暮れ時、俺は自宅の2階で昼寝をしていた。 「ピンポ~ン、ピンポ~ン」 誰か来たようだ。俺以外家には誰もいないし、面倒くさいので無視して寝ていた。 「…

高過ぎる電気代

ある新婚夫婦がマイホームを購入するため不動産屋を訪ねた。 その夫婦は、少し古いが希望に合う物件を見つけることが出来た。 そこは古い和風屋敷の一軒家。値段の割には良い物件。 …

コトリバコ(長編)

序 暇なときにここを読んでいる者です。俺自身、霊感とかまったくありません。ここに書き込むようなことはないだろうと思ってたんですが、 先月起こった話を書き込もうかと思いここに来ました。一応…

落ちるおじさん

先日、大学の同期の友人と久々に食事した時の話。 友人は大阪に出て技術職、私は地元で病院に就職しましたが勤めている病院は古く、度重なる増改築で構造はぐちゃぐちゃ。 たまに立ち…

夕焼け(フリー素材)

無知

最近、某巨大掲示板でとあるコピペを見つけた。 それを見て忘れかけていた数年前に起きた事件を思い出したので、ここに書こうと思う。 ※ 確か今から5年前の夏休み。俺が中学生の頃、…

山村

辿静祭の禁を破った村

俺はある山奥の村で生まれ育った。 人口は百人程度、村に学校は無かったから、町の小中学校まで通って行っていた。 村人のほとんどは中年の大人や高齢の方で、一部の高校生や大学生…