むかえにきたよ
公開日: 本当にあった怖い話 | 死ぬ程洒落にならない怖い話
私は高校時代、電車通学をしていました。
利用していたのは、一時間に一本ペース、駅の9割が無人駅という超ド田舎の私鉄です。
二年に上がった春、私が乗る駅で若い親子の飛び降り事故が起きました。
母親が足を踏み外したか何かが原因で、抱いていた赤ちゃんと共に線路上に落下。
幸い母親は命を取り留めましたが、赤ちゃんは即死だったそうです。
最近越して来た方だったようで、周りは面識が無い方が殆どだったようですが、平和な町なので事故のことはその日の内に地域全体に伝わり、花をあげに来たりする人もいました。
※
それから数週間経った頃、また飛び降り事故が起きました。
それを封切りに、三ヶ月の間に4回も事故が起きました。
死亡事故が無かった事だけが不幸中の幸いです。
私の学校の生徒も事故に遭いました。
彼女は幸い足を骨折しただけだったので、すぐに学校に登校するようになったのですが、
「あの時線路に赤ちゃんがいたの…だから助けようとしたんだけど、飛び降りた時にはいなくなってたんだ…」
と言っていたそうです。
勿論学校はその話題で持ち切り。死んだ赤子の呪いだなんだのと騒ぎ立てる男子が何人もいました。
※
夏休みに入り、私は課外に行くためにあの駅を利用しました。
本当は隣の駅から乗りたかったのですが、その日は送ってくれる人がいなかったため、仕方なしにここを利用しました。
その日課外があったのは一教科、選択教科であったのと、あの事故の事もあってそこにいたのは私一人。
『もうすぐ電車が来る。もしも線路に赤ちゃんがいても無視』と何度も思いながら待っていました。
すると、いつの間にか私の隣に俯いた若い男女が立っていました。
ブツブツと呟いたりすすり泣いたり、明らかに様子がおかしい二人に、流石になんかやばそうと距離を取ろうとしていた時、電車の音が微かに聞こえてきました。
『助かった!』と思っていたら、隣の女性が
「…きたよ」
と小さな声で言いました。
電車の事かと思っていたら、今度ははっきりと、
「むかえにきたよ」
その言葉になぜか背筋がゾッとし、とにかくこの人達は危ないと思って逃げようとしたのですが、足がすくんで動かないんです。漫画みたいに本当に都合良く。
「むかえにきたよむかえにきたよむかえにきたよむかえにきたよむかえにきたよむかえにきたよ…」
何度も「むかえにきたよ」と言う女性が恐怖でした。
すると女性の隣にいた男性が急に私の右手を掴んで、
「…が寂しがってる。友達が必要だ。君もいこう」
と言って腕を引っ張りました。
二人は線路に飛び降りるのに私を道連れにしたいようでした。
私は怖くて「やめて!!!離して!」と泣き叫びました。
腕を振り払おうとしたのですが、男性の握力がかなり強くて微妙だにしません。
電車は目の前まで迫っていて、私は『ああ、死んじゃうんだ…』と半ば諦めるような事を思っていたら、急に腕を引っ張る力がなくなり、私は後ろに倒れてしまいました。
頭に強い痛みを感じた後のことは覚えていません。
※
目覚めたのは次の日でした。
そこは病院で、両親の話によれば私はあの駅で柱に寄り掛かるように頭から血を流して倒れていて、私が待っていた電車の車掌さんが救急車を呼んでくれたそうです。
『あれは夢だったのかなあ』と思っていると、右手に人の手の形のような痣がありました。ドラマでよく見るようにくっきりと。
そして、あの立て続けに起きた飛び降り事故はあの日を境に無くなりました。
その後の噂ですが、最初の事故で命を取り留めた母親は、あの日の朝、夫と共に自宅で自殺していたそうです。
遺書があったそうなのですが、そこに書かれていたのは、
「きょう、むかえにいくからね」