小鳥子象

田舎の上空写真(フリー画像)

子供の頃に体験した不思議な話を投稿させてもらいます。

幼少の頃の記憶が元になっているので、あやふやなところもあるけどそこはご勘弁を。長いので幾つかに分けます。

まず話は俺が小学校に上がる前の頃の話(だから多分5歳頃だと思う)。

俺はその頃、中国地方のH県に住んでいたのだが、オヤジの仕事の都合で引っ越すことになったんだ。

引っ越し先は所謂「新興住宅タウン」。

都会で生まれ育った人にはピンと来ないだろうけど、要するに「山を一つ切り開いて造成し、住宅タウンとして新しく町を作ろう」という感じの所。

当時、H県にはそう言った新しく出来る住宅タウンが非常に多かったらしい(H県だけでなく、地方なら大体そうだろうけど)。

その住宅タウンは、山道を車で登って行くと突然周りが開け、そこに町があるという風情。なのでその町は山に囲まれるようになっていたんだ。

新しい家に引っ越して来て、でも基本的にはまだ田舎だから夜は物凄く暗い。

オープンしてまだ間もないタウンなので人もそんなに多くはなかった。

なので俺は親からこんなことを言われた。

「暗くなるまで遊んでると『小鳥子象』に連れ去られて食べられるよ」

まあ、今にして思えば大人が子供に「早く帰って来い」と躾けるための脅しな訳だ。

しかし子供の俺にしてみれば「小鳥」の顔をして胴体が「子象」、そんな化け物がいるのかと凄く怖くて、どんなに外で楽しく遊んでいても夕方には必ず帰るようにしていたんだ。

うちの数軒隣には、もうかなり前からこの土地にある家のM子という、俺と同じ歳の女の子が居た。

凄く可愛い子で、まあ俺の初恋の子な訳だが(笑)。

ともかくその子ともよく遊んでいた。

周りには空き地が数多くあり、また建築途中の家も沢山あったので、俺たちはそういう所に忍び込んでは「秘密基地だ!」と言いながら、人形が自分たちの子供という設定でおままごとをしてみたり、またM子の部屋に入って漫画などを読んだりして遊んでいた。

そんなこんなで小学校に入り、もちろん男の友達とも随分ヤンチャな遊びもしたけど、M子とも引き続き遊んだりしていた。

そうこうしている内に、ある日ふと気付いたんだな。

『あれ? M子って同じ歳なのに、何で小学校に居ないんだろう?』と。

ただやはり子供なのか、そんな大事なことを『まあいっか』とあまり深くも考えなかった。

ある日、小学校の遠足で裏山にあるG山という所に登ることになった。

G山は子供の足で頂上まで1時間30分くらいだったと思う。

頂上には社みたいな所があり、でも木々が高く昼間でも薄暗くて、ちょっと怖い所だった。

列になって山道を登っていると、ふと気付くと横にM子が居たんだ。

『あ、何だ。M子もやっぱり同じ小学校だったんだ。何組だろ?』と思いながら(一学年で7クラスあったので、全員を知っている訳ではない)、M子と手を繋いで一緒に登ることになった。

ただM子はいつもと違い少し暗い顔をしていて、言葉少なかったのを鮮明に覚えている。

どうにか頂上に着いて、お弁当タイムということでM子と一緒に食べようとM子の姿を探したけど、見つからないんだな。

それに女子と一緒にお弁当を食べていると友達にからかわれるような気もして、その日は結局、下山する時もM子の姿は見えなかったんだ。

その日以降、何故かM子の姿を見ることが少なくなった。

いや、これははっきり覚えていないのだが、そのG山に遠足で登った日以降もM子と何回か遊んだ気もするし、それきりM子の姿を見ていない気もする。

その辺の記憶はもう定かではない。

小学2年の終わりに、俺はまたもやオヤジの都合で今度は東京に引っ越しをすることになった。

その頃にはもうM子のことはあまり気にならず、別の女の子が好きだったので(笑)、引っ越しで出発する日も大してM子のことは気にしていなかった。

ここまでが子供の頃の話。長くてすまん。で、本題はここからだ。

小学3年の春に東京に引っ越して来た俺はその後ずっと東京に居て、H県には全く帰っていなかった(今でもH県には婆ちゃんや親戚は住んでいるが、俺自身はあまり交流は無い)。

数年前に 2chのこのスレを見つけてまとめサイトを読んでいると、まあまずは「コトリバコ」の話が目に付く。

読んでいる時は何とも思わなかったけど、数日後にタバコを吸いながら

『そう言えばコトリバコって子取り箱って書くんだよなぁ。島根県っていうから、H県と近いよなぁ』

などと思い、それでピンと来たんだ。

「あれ? 昔、親から脅された小鳥子象って…俺が勝手にそう思ってただけじゃ…。コトリコゾウ…子取り小僧ってことか?」

その瞬間、背筋がゾクッとした。

『いや、まさかな。でもH県は島根の隣だし、当時俺が住んでいた所はH県の外れの地方で島根との県境も近い。何か関係あるのか?』

と思い、翌日親に電話で聞いてみた。

「コトリコゾウって子取り小僧ってことか? それってどういう話なんだ?」

「あぁそうよ。あんたよく覚えてるねぇ。A地方(H県で住んでいた地方)に伝わる話らしいよ。でも詳しいことは私も知らんわよ」

結局、その時は子取り小僧のことはよく判らず仕舞いだった。

それから数ヶ月後、たまたま仕事でH県に行った俺は、2日ほど休みを取りレンタカーで昔住んでいた住宅タウンに行ってみることにした。

カーナビで何とか辿り着いたその住宅タウンは、昔と殆ど変わらない。いや、寧ろ地方経済不況の波でゴーストタウンのようになっていた。

当時住んでいた家はもちろん今は他人の家だが、外観自体はそのままで懐かしく、その家の前で車を降りて暫く周りを散歩してみることにした。

それで目に入ったのがM子の家。M子の家も当時と全く同じ外観だった。

『M子はもう当然結婚してどこかに嫁いでいるだろうから、実家には居ないだろうけど、俺のことはまだ覚えているだろうか?

そう言えばお別れも何も言わずに引っ越してしまって悪いことをしたな…』

と、そんなことを思いながら、M子のお母さんが居れば話を聞けるかもしれないと思い、思い切ってM子の家の呼び鈴を鳴らしてみた。

「はーい」と出て来たのはM子のお母さん。俺が何と説明しようかと迷っていると、お母さんが「あら? もしかして…Sちゃん?(俺の名前)」と言ってくれた。

「まぁー、懐かしいわねぇ。大きくなって。上がって行きなさいよ。お茶でも飲んで行って」ということで、家の中に通してもらったんだ。

M母「でもまぁ、どうしたの? 突然に」

俺「いや、仕事でこっちの方に来たのでつい懐かしくなって…」

と暫くは俺の近況報告みたいな感じになったのだが、話が一段落したところで切り出した。

俺「M子ちゃんは今はどうしてるんですか?」

母「……」

無言なまま5分くらい経っただろうか。下を向いたまま何も話そうとしないM母。

俺もちょっと『何かまずいことを聞いたんだろうか…』と後悔し始めた頃にやっとM母が語り出した。

「Sちゃんは…まだ小さかったから何も解らなかったのよね。で、すぐに東京に行ったから知らないままだったのね…」

俺は訳も解らずポカーンとしてると、M母が全てを教えてくれた。

以下はM母の話だ。方言は標準語に直しているし、話はもっと長いのだが、ある程度要約もしていることを先に断っておく。

また人権問題の微妙な話も含まれるので、その辺りは割愛する。

「M子がまだ1歳の頃の話よ。その頃はまだこの辺りはこんなに開けてなくてね。

山の中の小さな村で…この辺りは今で言う『同和』って言うの? 要は部落があったのよ。

部落の話はSちゃんもある程度は知ってるわよね?

で、ある時、この辺りを開発するってことで県のお役人がやって来て、私たちと県のお役人で大喧嘩が始まったのよ。

私たちとすればこの土地でこれからもずっとひっそりと暮らして行きたいのに、そんな新興住宅タウンを造るなんてとんでもない、と。

そこで、村の男達が毎晩集まって相談をしていたのね。

この地方にはね、コトリコゾウ様っていう言い伝えがあって、生まれて2歳までの女の子を生け贄としてコトリコゾウ様に差し出すと、物凄い力で憎い相手を退けることができるって言い伝えがあったの。

私達ももうここ何十年もそんなことはずっとしていなかったんだけど、村の長が『コトリコゾウ様に生け贄を差し出す』って言い出してね。

そしたら村の男達も『それしかない!』ってことになったのね。

その時、村には2歳までの女の子はM子しか居らず、結局白羽の矢がM子に立ったわけ。

そりゃ私やお父さんは大反対したわ。でもね、結局、長には逆らえず泣く泣くM子を生け贄としてコトリコゾウ様に差し出したわ。

裏にG山ってあるでしょ。あの山の頂上に社があるんだけど、Sちゃんも行ったことあるでしょ?

あの社にはコトリコゾウ様が祀られているの。長が泣き叫ぶM子を私達から奪って、G山に連れて行ったわ…。

でも結局その後すぐに開発計画は決まって、この辺り一帯は大きく変わったわ。

当然部落もその時に全て壊されてね。元々住んでいた私らは、この土地に残る者、県が用意した他の土地に越していく者、色々だったわ。

結局、コトリコゾウ様なんてただの言い伝えだったのよ…。

Sちゃん達がここに越して来たのは、町がオープンしてすぐの頃だったわよね」

ここまで聞いて、俺はもうパニックだった。

「嘘でしょ? だ、だって俺小さい頃、M子ちゃんと遊んだりしてましたよ?

この家にも何回か遊びに来て、お母さんも居ましたよね?」

と、上ずった声で必死にM母に問い掛けた。

そしてまたM母が語り出す。

「えぇ、そうね。SちゃんはよくM子と遊んでくれてたわね。

私はね、Sちゃんが近所で一人で遊んでる姿をよく見かけたわ。

また一人でSちゃんがうちに上がって来て、M子のためにと空けてあった部屋でずっと遊んでいたわね。

私らにはね、M子の姿は見えないんだけど、うちのお父さんと

『あぁ、SちゃんにはM子のことが見えてるんだね。M子も遊びたい盛りの年頃だ。Sちゃんには悪いが、暫く付き合ってもらおう』って話してたの。

そして、ある頃からSちゃんがそうやって一人で遊んでる姿を見なくなったわ。

これは後から聞いた話なんだけど、○○小学校の1年生って毎年、G山に遠足で登るんですってね? Sちゃんも行ったんでしょ?

これは私の推測なんだけど、SちゃんがG山の社に行ってくれたおかげで、多分M子も成仏したんだと思うわ。

大きくなったらSちゃんにはきちんと話そうと思っていたけど、すぐに東京に行ってしまったでしょ?

お父さんも私もそのことだけが気掛かりだったけど、今日こうして話せて良かったわ。

M子のお墓は××の近くにあるの。もし時間があったらお墓参りしてくれると嬉しいわ」

もう…俺は涙目。自分はずっと霊感なんてこれっぽっちも無いと思っていた。

いや、寧ろ霊とかそんなものは絶対に居ないと思っていた。

一応、理系出身なので科学が全てだと思っていた。

でも、もうこの話を聞いた時には涙が止まらず、ただM母の話を頷いて聞き、そしてM子のお墓参りをして、東京に帰って来た。

最近になってようやく自分の中で整理が付いて来たので、このスレに書いてみようと思った。

有名なコトリバコとコトリコゾウに関連性があるのかどうかは結局分からない。

また今でもM母の話が本当のことかどうかは俺にも分からない。

自分の記憶の中ではM子は確かに存在していた。遠足の途中で握っていた手の温もりはしっかりと覚えている。

そもそも…俺の初恋って…(苦笑)。

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