異口同音
公開日: 死ぬ程洒落にならない怖い話
怖い思いをして実害もあった話。
夜遅くに仕事から自宅のマンションの部屋に帰ったら、玄関の前に粉が落ちていた。
何だろうと思って屈んだところ、玄関ドアの異常に気付いた。穴が空いていた。
爪楊枝が二本入るくらいの小さな穴で、位置的には腰くらいの高さ。貫通はしていない。
粉はその穴の下に落ちている。その穴を開けた時に出た粉末のようだった。
しかもよく見たら一つではない。蝶番の近くと、膝くらいの高さの位置に二つで、合計三つ。
ピッキングか何かだったら怖いと思ったけど、部屋は無事だし、その日はチェーンロックして就寝。
残業で疲れていたし、シロアリかとも思ったから、明日不動産屋に連絡すればいいやくらいのつもりでいた。
※
何だかんだで次の日も残業してから帰宅し、泣きそうになった。
穴が増えていた。やはり腰くらいの高さに一つ追加。
半泣きでマンションの入り口へ戻り、管理会社に電話したよ。被害が微妙過ぎて通報は躊躇った。
管理会社の人が来て、翌日に不動産屋と一緒に対応を考えることになった。
その日は同期に泣きついて泊めてもらった。
※
その翌日。不動産屋が警察に通報して、犯人はあっさり捕まった。
うちの玄関に穴を開けた犯人は、隣の部屋の住人だった。
仕事中に犯人逮捕の知らせを受けたので、その日は残業無しで警察署へ行った。
不動産屋も居て、事情説明を受けた。
「実は一年ほど前にも、同様の被害がありまして…」
「はあ!!???」
とリアルに声に出した。
「そんな危ないヤツが住んでいるなら、最初から言っとけ!」
と言ったら、
「いえ、その方は器物破損で書類送検された後、退去していただいたのですが…」
俺きょとん。退去した?
「その後に新しくあの部屋に入った方が、その…今回の悪戯の犯人でした」
※
警察が隣の部屋に何か物音を聞かなかったかと質問に行ったら挙動不審だったもので、厳し目に聞いたら自白したらしい。
前の犯人は所在も確かめ、そっちはそっちで別の場所に居るそうだ。
二人に接点は無いと警察が言っていた。
犯人の動機は二人とも異口同音というもので、
「見ないと見られる」
と意味不明らしい。
※
あれ、覗き穴だったのか…貫通していなかったのに。
自分の部屋か隣の部屋が実は事故物件なのではないかと聞いたら、不動産屋は否定していた。
いや、同じ部屋に住んだ別人が同じ風におかしくなるなんて、明らかに異常だろ…。
そして異常があるとしたら、うちと犯人のどっちの部屋なんだよ…。
こっちの部屋の何を見られていたんだよ…。
もちろん自分はすぐに引っ越して、最近ようやく気分的に落ち着いて来たところです。