浜辺で踊るモノ
公開日: 死ぬ程洒落にならない怖い話
小学四年生の頃に体験した話。
当時親戚が水泳教室を開いていて、そこの夏季合宿のようなものに参加させてもらった。
海辺の民宿に泊まり、海で泳いだり魚を釣ったり山登ったりする。
小学生が十数人と、後は引率の先生が男女合わせて四人ほど居た。
俺は同年代の従姉妹がいたおかげですぐに他の生徒とも打ち解け、一週間もの間、毎日楽しく過ごした。
※
その最終日前日のことだったと思う。
運悪く台風が近付いて来ているということで、海でも泳げず俺たちは部屋でくさっていた。
みんなは部屋で喋ったりお菓子を食べたりテレビを見たりしていたが、俺は目の前の海を民宿の二階の窓からぼんやりと眺めていた。
強風で物凄い高さの波がバッコンバッコンやって来るグレーの海。
「何だあれ?」
思わず声が出たのかもしれない。
気が付くと後ろにKちゃんもやって来て、一緒に窓の外を見ていた。
二つ上の六年生で、虫採りが上手な奴だったと記憶している。
「え、あれ…」
Kちゃんも浜辺のそれに気が付いたらしく、目が大きく見開いている。
荒れ狂う海のすぐ傍を、白いモノが歩いて来る。
歩いて来ると言うより、移動して来る。
男か女かも分からない。
俺は近眼なのでよく見えない。
服などを着ているようには見えないのだけど、全身が真っ白だ。
真っ白のウェットスーツ? そんなものあるのか?
動きはまるでドジョウ掬いをしているような感じで、両手を頭の上で高速で動かしている。
俺の真後ろで突然やかんが沸騰した。
「ピーーーーーーーーーー!」
いや、違う。Kちゃんの叫び声だった。
引率の先生が飛んで来た。
Kちゃんは何度もやかんが沸騰したような音を出し、畳をザリザリと裸足の足で擦りながら、窓から離れようとしていた。
その後、引率の先生と他の先生とがKちゃんを病院に連れて行った。
その日はみんな怖かったので、布団をくっつけ合って寝た。
Kちゃんは戻って来なかった。
※
数年後に親戚の集まりで従姉妹と会ったので、その夏のことを聞いてみた。
従姉妹は何故か露骨に嫌な顔をした。
Kちゃんはストレス性の何とかで(脳がどうとか言っていた)、その後すぐに水泳教室を辞めたらしい。
水泳教室もあれ以降、夏季合宿を中止したそうだ。
Kちゃんは何を見たと言っていた? 俺が聞きたいのはこれだけなのだ。
が、どうしても聞き出せなかった。
※
俺はその夏季合宿の後、すぐ眼鏡を掛けるようになった。
今でも、その夏季合宿の時にもし眼鏡を掛けていたら…と思う。
Kちゃんは一緒に森を探索した時に、木に擬態しているような虫も真っ先に見つけるほど目が良かった。
Kちゃんはきっと、その浜辺で踊っていたモノを、はっきりと見てしまったに違いないのだ。