ダイバー

Scuba-diving1

私はある南の海で仲間たちとスキューバダイビングを楽しんでいました。空は晴れ渡り、海の状態は非常に安定していて絶好のダイビング日和でした。

私は仲間のダイバーと二人で、あるダイビングスポットを潜りました。どんどんと深く潜って行ったのですが、ある地点で海底の異変に気づいたのです。

何かおかしい。

よくよく見ると、海底には一面に人間が生えていたのです。人間が。連れのダイバーを見ると、呆然として固まっています。海底から生えている人間の顔はどれも同じで、美しい少女でした。

どうしたらいいのかわからなくてしばらく眺めていると、連れのダイバーがすぐ側に来て、私の肩を叩き、ある方角を指差しました。その方角を見やると、ダイビングの装備をまったくしていない、至って普通の格好をした老人が鎌で少女たちを刈り取っているのです。

無表情だった少女は、刈り取られる瞬間、何ともいえない苦痛の表情を浮かべます。 海中でも叫び声が聞えてきそうな表情でした。しかし、その顔も、やがて切り取られた足下から広がる少女の血によって見えなくなってしまいます。

そうして老人は少しずつ私たちの方へ近づいてきました。やがて、私たちのすぐ側までやってきた老人は、完全に固まっている私たちの方へ顔を向け、にやりと笑い手にした鎌を差し出しました。まるで、

「お前たちもやってみるかい?」

とでも言わんばかりに。

次に気づいたとき、私たちは二人とも病院のベッドの上でした。

酸素がなくなる時分になっても上がってこない私たちを心配した仲間のダイバーが助けてくれたのです。そのダイバーはわれわれが見たようなものは見ていないといいます。

「海ではいろんな幻覚を見るものだ。それが海の怖さであり、素晴らしささ」

と、その年長のダイバーは私たちに諭すように言いました。

しかし私ははっきり言えます。あれは決して幻覚などではなかったと。

関連記事

キャンプ(フリー写真)

もし、旅かな?

学生だった頃、週末に一人キャンプに興じていた時期があった。 金曜日から日曜日にかけてどこかの野山に寝泊りする、というだけの面白味も何もないキャンプ。 友達のいない俺は、寂…

浜辺(フリー写真)

浜辺で踊るモノ

小学四年生の頃に体験した話。 当時親戚が水泳教室を開いていて、そこの夏季合宿のようなものに参加させてもらった。 海辺の民宿に泊まり、海で泳いだり魚を釣ったり山登ったりする。…

後悔

今日ここで、私が9年前から苦しめられ続けている後悔と恐怖の記憶を、この話を見た人にほんの少しづつ、持って行ってもらえれば良いなと思い、ここにこうして書かせてもらいます。 実際に何…

犯罪者に縁のある私

今から書く事はすべて実話なんですが、心霊話ではありません。 私が9歳の時、父の仕事(自営)の取引先の人が初めて私の家に来た時、私が案内のために迎えに行きました。 その人は優…

夕方の路地

道を教えて下さい

「道を教えて下さい」 夕方の路地でそう話し掛けてきたのは背の高い女だった。 足が異様に細く、バランスが取れないのかぷるぷると震えている。 同じように手も木の枝のように…

夜空の月(フリー写真)

砂利を踏む足音

学生の頃、実家を離れて大学の寮に住んでいた。 田舎の学校で、その敷地から歩いて20分程度の場所にある寮だった。 周りは住宅地で、古くからあるお宅と、ベッドタウン化による新興…

生き延びた男

これは本当にあった事件の話で、ある精神病院に隔離された事件の生存者の話です。 なので細部が本当なのか狂人の戯言なのかは分かりません。 しかし事件そのものは実際に起こり、北海…

田舎の景色(フリー写真)

よくないもの

自分、霊感ゼロ。霊体験も経験無し。 だから怖い怖いと言いながら、洒落怖を見てしまうのさね。 何年か前、当時大学生だった親友Aから奇妙な頼まれ事があった。 そう…ちょう…

マンションのドア(フリー写真)

異口同音

怖い思いをして実害もあった話。 夜遅くに仕事から自宅のマンションの部屋に帰ったら、玄関の前に粉が落ちていた。 何だろうと思って屈んだところ、玄関ドアの異常に気付いた。穴が空…

エレベーターのボタン(フリー写真)

走って来る人影

その日は仕事帰りに買い物のため、自宅近くのショッピングモールに寄りました。 時刻は20時過ぎだったと思います。 そのショッピングモールは、デパートと言うには小さ過ぎる地方の…