異界の午後

商店街

これは私が8歳の頃に体験した不思議な話です。

私の家は商店街の魚屋で、年中無休で営業していました。

ある日、目覚めると家には誰もいませんでした。店も開いており、通常ならば家族が忙しく働いているはずの時間帯です。

不安に駆られた私は、店番を始めました。

しかし、すぐにおかしなことに気付きました。時計は朝9時を指しているにもかかわらず、店の外は夕方のように暗く、空にはグレーの夕陽が浮かんでいました。その夕陽からは一切のオレンジ色が感じられませんでした。

さらに、時間が経つにつれて、誰一人として店の前を通る人がいないことに気づきました。また、周囲からは一切の音が聞こえてこないのです。

怖くなった私はリビングの冷蔵庫にもたれかかって座り込み、何とか気を紛らわせようとテレビをつけました。しかし、どのチャンネルも砂嵐で、音一つしませんでした。

恐怖を感じた私は家を飛び出しましたが、商店街には誰もおらず、開いているはずの店からも声が聞こえてきませんでした。

そんな中、たった一人のおじさんに出会いました。私は彼に駆け寄り、彼のシャツにしがみつきながら泣きました。

おじさんは困惑しつつも、「目を閉じて三つ数えて」と言いました。頭が少し痛くなりましたが、おじさんの言うとおりに数えました。

気づくと、私は再び家の冷蔵庫の前に立っていました。母がいて、「あれ?今、あんた二階にいたじゃない。いつ降りてきたの?」と聞いてきました。

私はその場に戻れた安心感から、母の質問には答えられませんでした。私が経験したこの出来事は、まるで異界に迷い込んだかのようでした。

関連記事

手形

友達の先輩Aとその彼女B、それから先輩の友達Cとその彼女Dは、流れ星を見に行こうということで、とある山へ車を走らせていました。 山へ向こうの最後のガソリンスタンドで給油を済まし、…

抽象画

お還りなさい(宮大工14)

俺が初めてオオカミ様のお社を修繕してから永い時が経過した。 時代も、世情も変わり、年号も変わった。 日本も、日本人も変わったと言われる。 しかし俺を取り巻く世界はそれ…

エレベーター

今から5年前、渋谷のとある会社に勤めていた時の体験。 深夜残業になり、夜中まで仕事をしてた。事務所は6階建ての雑居ビルの4階で、深夜になると非常階段は閉められてエレベーター以外降…

時空(フリー画像)

祖母のタイムスリップ体験

祖母が体験した不思議な話。 まだ終戦後のバラック住まいの頃、生活物資を買いに市へ出掛けたんだそうな。 所々にバラック小屋が建っているだけの道を歩いていた時、急に辺りの様子が…

蝋燭(フリー写真)

お地蔵さん

私の地元では年に2回「お地蔵さん」という行事と言うか、お寺のお参りイベントみたいものがあるんです。 あるお寺に行き、あの世で幸せにしていて欲しい亡くなった方の名前を読み上げて、…

山遊び

子供の頃の話。 大して遊べる施設がない田舎町だったので、遊ぶと言えば誰かの家でゲームをするか、山や集落を歩いて探検するかの2択くらいしかする事がなかった。 小学校が休みの日…

ビー玉(フリー写真)

A子ちゃんの夢

ちょっと辻褄の合わない不思議な経験で、自分でも偶然なのか思い込みなのか、本当にそうだったのか自信がないのですが。 子供の頃、大人になっても憶えているような印象的な夢を見た事があり…

抽象画

息子を迎えに来ますからね

知人のおばあさんは我が強くて恐い人だけど、自分の母親の話をする時だけは顔つきが穏やかになる。その人から聞いた昔話が原因の出来事。 ※ そのおばあさんの母親(仮にAさんとする)は、お…

犬(フリーイラスト)

じじ犬との会話

ウチのじじ犬オンリーだけど、俺は夢で犬と会話できるっぽい。 じじ犬と同じ部屋で寝ていると、大抵じじ犬と喋っている気がする。 「若いの、女はまだ出来んのか?」 「うるさ…

古書店の本棚(フリー写真)

客寄せ仔猫

伯父の高校時代に、伯父が好きだった娘がいた。 高校卒業後は、偶に同窓会で顔を合わせる程度の付き合いだった。 しかし数年経って、その娘が親の勧める縁談を受けて結婚し、夫の仕…