山あいの時計店では霧の朝の四時十九分、二十の柱時計の音がぴたりと揃った。恩師の手帳に残る耳澄ましの手順どおり音を数えた私は、墨流しの渦巻く異世界に迷い込み、恩師…
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昭和四十四年の秋、信州の山村に保健婦として赴任した私は、柿の木に実が一つも残らぬことに気づいた。木守りを絶やした村に伝わる怖い話。水を落としたはずの棚田に人が立…
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これは録音の仕事で出会った怖い話。昭和六十三年の夏、廃鉱の飯場跡で、深夜番組のために一晩ぶんの無音を録ることになった。地下へ降りる階段は十三段。だが朝、上がって…
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昭和の半島の丘で、県道拡張のため古い石の宮を移すことになった石工の私。掘り起こした据石は、村が「負い石」と呼び、災いを負わせて封じてきた石だった。動かしてはなら…
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恩師の生まれ育った谷へ、やり残した測量の杭を打ちに向かった技師。凪の刻に迷い込んだのは、言葉も文字も通じない、少しだけずれた土地だった。毎日打たれる薄青い注射、…
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ダムに沈む谷の底、朽ちた坑道の奥に、赤茶けた巨大な鉄の輪が縦に据えられていた。霧のいちばん濃い晩、肝だめしにその輪をくぐった先で、私は名前も、顔も、生まれた国さ…
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昭和四十四年の冬、越後の山あいにある分校へ赴任した私は、宿直の明け方に雪を掃く音を聞いた。校庭へまっすぐ伸びる一本の跡、数えるたびに増える教室の扉、名簿に増えた…
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昭和の終わり、測量助手の私は山を案内する老人に従い、忘れられた墓を拾い歩いていた。だが帰りの風の無い窪地で、宙にぶら下がる人型のものと、土の下から湧く得体の知れ…
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昭和末期、北の半島の港町。港の拡張工事で、岬に据えられた古い立石が動かされた。封じの蓋を開けた者の血筋へ、因は順を追って回っていく。石工の私が、幼馴染の一家を襲…
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古道具の出張買取で訪れた、旧街道沿いの在郷町。蔵の奥から出てきたのは、赤い糸で厳重に巻かれた古い人形だった。糸がひとりでに解けた夜から、首の伸びる異形が、夜ごと…
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山陰の峠で見知らぬ女を乗せてしまった長距離トラック運転手が体験した、洒落にならない怖い話。カチカチと鳴る音、首すじの継ぎ目、袂に忍ばされた人形の指。港まで先回り…
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岬の御堂に置き残された朱の封じ甕をめぐる長編の怖い話。黒い着物の老人が唱えた裏返しの言葉、甕を開けようとした二人の目の異変、そして書き換えられた事故の記憶。移し…
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平成のはじめ、山あいの養蚕集落の空き蔵で、赤い組紐に十文字に巻かれた小さな桐の箱を見つけた学芸員の私。持ち帰った夜から、天井で鳴る音と、どこからともなく絡みつく…
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山あいの古い団地は、埋め立てられたため池の底に建っていた。深夜二時、誰も乗せず最上階へ昇る無人のエレベーター。雨上がりの晩、住人が一人また一人と姿を消す——設備…
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昭和五十二年の夏、都会の勤めを辞めて行き場をなくした私は、半島の先の漁村・鵜ノ首の浦で大伯母フミの家にひと月を過ごした。窓のない網蔵に籠るもの、沖の離れ岩から還…
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たたら製鉄で栄えた山奥の谷に残る、近づいてはならない石塚。治山の測量で禁を破った私が触れた黒い口と、左手に残った冷たさ。土地の禁忌を描く長編の怖い話。今も谷の石…
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平成のはじめ、消えゆく山あいの集落で子守唄を集めていた学芸員が、霧降りの森の奥で出会った怖い話。還された子らの泣き声が霧のなかから人を招き、帰り道を惑わせる。土…
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信州の製糸の家に奉公した私が出会った、市松人形にまつわる怖い話。喪った娘と同じ名を与えられた人形は夜ごと向きを変え、髪を失い、やがて家の者を一人ずつ呑み込んでい…
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昭和の遠洋漁船で夜の見張りに立っていた俺は、凪の霧の晩、気づくと異世界の浜辺にいた。潮を力に栄えた並行世界の日本が黙した理由、意識から切り離されて勝手に動く身体…
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三十年同じ机で書いてきた私の前に、夜ごと増える原稿が現れる。誰も書いていないはずの一枚は、私の筆跡で、まだ来ていない明日の出来事を綴っていた。かつてこの部屋で筆…
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