岬の御堂に置き残された朱の封じ甕をめぐる長編の怖い話。黒い着物の老人が唱えた裏返しの言葉、甕を開けようとした二人の目の異変、そして書き換えられた事故の記憶。移し…
続きを読む
平成のはじめ、山あいの養蚕集落の空き蔵で、赤い組紐に十文字に巻かれた小さな桐の箱を見つけた学芸員の私。持ち帰った夜から、天井で鳴る音と、どこからともなく絡みつく…
続きを読む
山あいの古い団地は、埋め立てられたため池の底に建っていた。深夜二時、誰も乗せず最上階へ昇る無人のエレベーター。雨上がりの晩、住人が一人また一人と姿を消す——設備…
続きを読む
昭和五十二年の夏、都会の勤めを辞めて行き場をなくした私は、半島の先の漁村・鵜ノ首の浦で大伯母フミの家にひと月を過ごした。窓のない網蔵に籠るもの、沖の離れ岩から還…
続きを読む
たたら製鉄で栄えた山奥の谷に残る、近づいてはならない石塚。治山の測量で禁を破った私が触れた黒い口と、左手に残った冷たさ。土地の禁忌を描く長編の怖い話。今も谷の石…
続きを読む
平成のはじめ、消えゆく山あいの集落で子守唄を集めていた学芸員が、霧降りの森の奥で出会った怖い話。還された子らの泣き声が霧のなかから人を招き、帰り道を惑わせる。土…
続きを読む
信州の製糸の家に奉公した私が出会った、市松人形にまつわる怖い話。喪った娘と同じ名を与えられた人形は夜ごと向きを変え、髪を失い、やがて家の者を一人ずつ呑み込んでい…
続きを読む
昭和の遠洋漁船で夜の見張りに立っていた俺は、凪の霧の晩、気づくと異世界の浜辺にいた。潮を力に栄えた並行世界の日本が黙した理由、意識から切り離されて勝手に動く身体…
続きを読む
三十年同じ机で書いてきた私の前に、夜ごと増える原稿が現れる。誰も書いていないはずの一枚は、私の筆跡で、まだ来ていない明日の出来事を綴っていた。かつてこの部屋で筆…
続きを読む
昭和の城下町で区画整理の測量をしていた私は、公図にだけ残る十三番目の区画に気づく。日が暮れる境の時刻に北のはずれの角を曲がると、表とそっくりの裏の町が広がってい…
続きを読む
昭和の銅山で運搬夫をしていた老人が、生涯ただ一度だけ立ち会った夜の出来事を書き残した怖い話・体験談です。鉱脈が痩せた年、親方衆だけが新月の晩に旧陸軍の坑道へ向か…
続きを読む
異世界の駅で出会ったのは、もういないはずの親方だった。昭和の終わりの冬、雪深い山あいの無人駅で最終の汽車を逃した若き建築職人が、時刻表にない真夜中の一両汽車に乗…
続きを読む
文化財調査で訪れた北陸の半島の港町。解体間近の網元の旧家の裏庭には、窓やガラス戸はあるのに人の出入りする入口だけがない離れが建っていた。母から娘へ受け継がれた隠…
続きを読む
平成六年の夏の終わり、半島の役場で働く私は、先に逝った母の故郷の漁村で、古い土地台帳に「凪番」という家の役を見つける。凪いだ晩に海の向こうから上がるナギサマ、呼…
続きを読む
昭和四十九年の晩秋、奥羽のブナ山で国有林の境界を調べていた見習いの私は、老いた杣から「北の一つ目の尾根を見るな」と告げられる。額に縦の目をもつ片目様に魅入られた…
続きを読む
剥製の標本が整然と並ぶ、世を去った蒐集家が遺した奥の部屋。台帳と棚とを照らし合わせるうち、私は標本がいつも一体だけ多いと気づく。種の名ではなく、人の名と日付だけ…
続きを読む
昭和の山奥の集落で、国土調査の測量技師が聞いた鏡淵の言い伝え。のぞけば名をとられるという淵を、若さと好奇心から三人でのぞいてしまった。五年後、十年後に一人ずつ静…
続きを読む
昭和五十七年の秋、川霧の立つ山あいの町で市史を編んでいた私は、丘の祠に納められた木札を写真に撮ってしまった。その晩から、灰色のコートを着た名取りの女が借家の戸や…
続きを読む
四十年戸籍を扱った私のもとへ、消えた集落『音無』から毎春、消印も住所もない出生届が届いた。百年以上前と同じ赤子の名、震える筆跡。誰が出すのか確かめに山奥へ分け入…
続きを読む
昭和の山奥、ダム工事の飯場で働いていた二十歳の夏のことだ。決まりを破って入った夜の裏山で、御神木に古釘を打ちつける女を見てしまった。危険な好奇心が招いた取り返し…
続きを読む